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刀装具の鑑定区分 - ホームメイト

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日本刀と同様に、日本刀の外装に付属する「刀装具」(とうそうぐ)に対しても、美術品として価値がある物には、鑑定が行われています。鑑定を行っている機関は、日本国と公益財団法人「日本美術刀剣保存協会」です。日本美術刀剣保存協会による鑑定区分、①「保存刀装具」(ほぞんとうそうぐ)、②「特別保存刀装具」(とくべつほぞんとうそうぐ)、③「重要刀装具」(じゅうようとうそうぐ)、④「特別重要刀装具」(とくべつじゅうようとうそうぐ)について、詳しくご紹介します。

刀装具の鑑定区分とは

日本美術刀剣保存協会による鑑定

日本美術刀剣保存協会による鑑定

日本美術刀剣保存協会による鑑定

刀装具」とは、刀の外装に付属する部品、金具のことを言います。つまり、「」(つば)、「」(つか)、「目貫」(めぬき)、「」(こうがい)、「小柄」(こづか)、「縁頭」(ふちがしら)などのこと。

刀装具は、小さいながらも、日本伝統工芸の高度な技巧が施された美術品。刀剣と同様に優れた刀装具に対して、大きく2つの機関により評価が行われています。

ひとつは、「日本国」による「国宝」、「重要文化財」、「重要美術品」という評価。もうひとつは、公益財団法人「日本美術刀剣保存協会」(にほんびじゅつとうけんほぞんきょうかい)による評価です。

日本美術刀剣保存協会では、現在、優れた刀装具に対して4段階で評価し、鑑定書を発行しています。評価は「保存刀装具」、「特別保存刀装具」、「重要刀装具」、「特別重要刀装具」と、この順に高くなっています。

なお、1948年(昭和23年)から1982年(昭和57年)までは、「貴重小道具」、「特別貴重小道具」、「甲種特別貴重刀装具」の3段階による認定もありましたが廃止されました。また、審査時において美観を損なう大きなキズ・欠点が確認された物や、生存する作家の作品は審査対象外となっています。

保存刀装具とは

保存刀装具の価値と審査

保存刀装具

保存刀装具

「保存刀装具」とは、日本美術刀剣保存協会により、保存する価値があると判断された刀装具のことです。

4段階のうちでは1番低い評価となりますが、厳しい審査を通過した素晴らしい物。保存刀装具に鑑定されるにあたって、日本美術刀剣保存協会は「審査基準」を公表しています。それは、以下の通りです。

  1. 江戸時代までの作で、銘の正しいもの。または、無銘のものであっても、年代・流派が指摘でき、美術工芸的に価値が認められるもの。
  2. 前項に該当するもので、多少の疲れあるいは、キズがあっても鑑賞に堪え得るもの。
  3. 作品の補修のある場合は、美観を著しく損なわない程度のもの。
  4. 明治時代以降の作で、出来と保存が良いもの。
  5. 鉄製の作品で軽く火をかぶり、少し錆色が変わっているものであっても美術的価値が認められ、鑑賞に堪え得るもの。
  6. 江戸時代を下らない鋳造の作品であって、雅味があり、鑑賞に堪え得るものは、合格とする場合がある。
  7. 在銘作で、銘及び作風より真偽を俄に決しかねるもの、または、無銘作で極めを容易になし得ないものは「保留」とする場合がある。
  8. 明治時代以降の鋳造品は、不合格とする。
  9. 外国製の刀装具は、原則として審査の対象外とする。

日本美術刀剣保存協会による審査は年に8回程度です。なお、鑑定ではなく、刀装具を購入したいという場合は、刀剣ショップに相談すると良いでしょう。保存刀装具の価格帯は50,000円から200,000円。刀装具の中で、1番購入しやすいと言えます。

「刀剣ワールド財団」が所蔵する保存刀装具

双鶴図(割短冊銘)光行作倣彫誌之 信明作 目貫
(そうかくず[わりたんざくめい]みつゆきさくほうちょうこれをしるす のぶあきさく めぬき)

双鶴図(割短冊銘)光行作倣彫誌之 信明作 目貫

双鶴図(割短冊銘)光行作倣彫誌之
信明作 目貫

双鶴図(割短冊銘)光行作倣彫誌之 信明作 目貫」は、金工「宮田信明」(みやたのぶあき)氏が制作した目貫です。目貫とは、目釘の上に付ける装飾具のこと。

宮田信明氏は、1888年(明治21年)生まれ。昭和時代に活躍し、古作の名品を模した目貫や小柄を数多く作りました。

本目貫は、江戸時代に活躍した名工「菊岡光行」(きくおかみつゆき)の作品を、宮田信明氏が模した物。鶴の表情がとても柔和で、羽根1枚1枚に細やかな毛彫りがなされて巧妙。鶴は不老不死の象徴とされるめでたい鳥で、縁起良く、気品を感じる1具です。

特別保存刀装具

特別保存刀装具の審査

特別保存刀装具

特別保存刀装具

「特別保存刀装具」とは、日本美術刀剣保存協会により、特別保存する価値があると判断された、刀装具のことです。

4段階では下から2番目の評価となりますが、かなり素晴らしい物。特別保存刀装具と鑑定されるための審査基準は、以下の通りです。

  1. 保存刀装具よりも (1)さらに出来が良く、保存状態が良いもの。(2)出来が優れ、さらに銘文や作風についても資料的価値の高いもの。 (3) 各時代を通じて、著名作家の作でなくても、その作家の傑作と認められ、美術的価値が高いもの。 (4)伝統の技を守り、極めて制作が優れ、美術的価値が高いもの。
  2. 保存刀装具のうち、以下のものは合格の対象とはならない場合がある。 (1) 在銘、無銘にかかわらず、補修や改造が比較的目立つもの。 (2) 一流金工の作品でも、地金や文様を磨きすぎ、色金が照かり、時代色を損ねたもの。 (3) 作品の出来は良くても、銘字の状態が悪く、判読できないもの。

特別保存刀装具の審査も年に8回程度。価格帯は、150,000円から1,500,000円と幅が広いです。

「刀剣ワールド財団」が所蔵する特別保存刀装具

二所物 無銘(後藤)尾張徳川家伝来 小柄・笄
(ふたところもの むめい ごとう おわりとくがわけでんらい こづか・こうがい)

二所物 無銘(後藤)尾張徳川家伝来 小柄・笄

二所物 無銘(後藤)尾張徳川家伝来 小柄・笄

二所物 無銘(後藤)尾張徳川家伝来 小柄・笄」は、尾張徳川家に伝来した、由緒正しい小柄(こづか:刀に付属する小刀の柄)と笄(こうがい:刀に付属する耳かき・髪かきの棒)です。小柄、笄、目貫の模様が揃った物は「三所物」(みところもの)、2つ揃った物は「二所物」(ふたところもの)と呼ばれています。

本小柄と笄は、「二所物」です。赤銅(しゃくどう)に魚子地(ななこじ:金属の表面に魚の卵のような小さな粒を一面にきざんだ彫金細工)が施され、徳川家の家紋「葵紋」が散りばめられた逸品。

本二所物は、無銘ですが、後藤家が制作したと伝えられている物です。後藤家とは、日本金工の祖「後藤祐乗」(ごとうゆうじょう)の一族のことで、代々将軍家に仕えて金工を制作し、「御家彫り」と呼ばれました。後藤家の作風は、龍と獅子の図柄、家紋を取り入れ、金と銅を混ぜ合わせた赤銅という美しい漆黒の素材を使用するところです。

重要刀装具とは

重要刀装具の審査

重要刀装具

重要刀装具

「重要刀装具」とは、日本美術刀剣保存協会により、重要と判断された、刀装具のことです。

4段階では、最高評価の「特別重要刀装具」に準じる評価。重要刀装具と鑑定されるための審査基準は、以下の通りとなっています。

  1. 特別保存刀剣よりも、特に出来が優れ、美術工芸的に極めて価値が高く、国認定の重要美術品に準ずると判断されるもの。
  2. 各時代を通じて、著名作家の作でなくても、その作家の傑作と認められ、美術的価値が極めて高いもの。

重要刀装具の審査は、1年に1度です。重要刀装具を購入したい場合は、刀剣ショップに相談すると良いでしょう。価格は3,500,000円から5,000,000円と高額です。

「刀剣ワールド財団」が所蔵する重要刀装具

金梨子地家紋散 蒔絵鞘 飾太刀拵 鍔
(きんなしじかもんちらし まきえさや かざりたちごしらえ つば

金梨子地家紋散 蒔絵鞘 飾太刀拵 鍔

金梨子地家紋散 蒔絵鞘 飾太刀拵 鍔

金梨子地家紋散 蒔絵鞘 飾太刀拵 鍔」は、小田原藩(現在の神奈川県)の藩主を務めた大久保家に伝来した「金梨子地家紋散 蒔絵鞘 飾太刀拵」に付属する刀装具のひとつです。

「金梨子地家紋散 蒔絵鞘 飾太刀拵」は、飾り太刀で、とても華麗。飾り太刀とは、平安時代に貴族の儀仗用として登場した太刀で、江戸時代にも様式が伝えられました。

柄は白鮫着せ。は金梨子地と言う、金粉を蒔いた蒔絵が施され、大久保家の家紋「上がり藤」と「大」を組み合わせた「大久保藤紋」が描かれています。

本鍔は、蔓付きで粢形(しとぎがた:長円形)の唐鍔。菊の花が仔細に彫られ、鍍金魚々子地(めっきななこじ)なのが特徴です。

鍍金魚々子地とは、鍍金を用いて、魚の卵を蒔いたように見せる美しい金工法。大久保家の家紋・大久保藤紋が高彫(たかぼり:模様を高く浮き上がらせるように彫ること)され、碧色で猪の目(いのめ:イノシシの目の形。ハートマークのように見える)の玉装も散りばめられて、高貴です。

この刀装具の拵
金梨子地家紋散 蒔絵鞘 飾太刀拵
(きんなしじかもんちらし まきえさや かざりたちごしらえ)
金梨子地家紋散 蒔絵鞘 飾太刀拵

金梨子地家紋散 蒔絵鞘 飾太刀拵

特別重要刀装具とは

特別重要刀装具の審査

特別重要刀装具

特別重要刀装具

「特別重要刀装具」とは、日本美術刀剣保存協会より、刀装具の中で最も評価が高いとされた刀装具のことです。特別重要刀装具と鑑定されるための審査基準は、以下の通りとなっています。

  1. 「重要刀装具」よりも、さらに一段と出来が傑出し、保存状態が優れ、我が国の美術工芸史上、資料的価値が極めて高いと認められるもの。
  2. 国認定の重要美術品に相当する、または国指定の重要文化財に準ずる価値があると判断されるもの。

日本美術刀剣保存協会による特別重要刀装具の審査は、2年に1度しかない狭き門。特別重要刀装具は、とても貴重な物で、市場に出回ることはほとんどありません。

「刀剣ワールド財団」が所蔵する特別重要刀装具

変り塗鞘 安親金具 打刀拵 鍔
(かわりぬりさや やすちかかなぐ うちがたなごしらえ つば)

変り塗鞘 安親金具 打刀拵 鍔

変り塗鞘 安親金具 打刀拵 鍔

変り塗鞘 安親金具 打刀拵 鍔」は、刀工「源本行」(みなもとのもとゆき)の最高傑作「刀 銘 肥前国唐津住河内守源本行作」のために作られた「変り塗鞘 安親金具 打刀拵」に付属する刀装具のひとつです。

本鍔を制作したのは、金工「土屋安親」(つちややすちか)。奈良派の金工で「奈良三作」(ならさんさく)のひとりと呼ばれた人物です。

鍔の形が独特なのは、注文主が大学頭「松平頼貞」(まつだいらよりさだ)だったため。

松平頼貞の通称が「大学」で、土屋安親は「大」の文字を図案化。これが「大学形」(だいがくがた)と称されました。

打ち寄せる波を描いた波頭図(はとうず)の構図も見事。鋤出彫り (すきだしぼり:絵を立体的に彫る技巧)、地透かし彫り(じすかしぼり:模様のまわりの素地を透かす技巧)、小透かし彫り(こすかしぼり)など、かなり高度な技法が尽くされて、観ていて飽きません。お揃いで、縁頭(ふちがしら)が制作され、「安親」の金象嵌銘(きんぞうがんめい)も切られた逸品です。

この刀装具の拵
変り塗鞘 安親金具 打刀拵
(かわりぬりさや やすちかかなぐ うちがたなごしらえ)
変り塗鞘 安親金具 打刀拵

変り塗鞘 安親金具 打刀拵

この刀装具の刀
刀 銘 肥前国唐津住河内守源本行作
(かたな めい ひぜんのくにからつじゅうかわちのかみみなもとのもとゆきさく)
刀 銘 肥前国唐津住河内守源本行作
刀 銘 肥前国唐津住河内守源本行作
肥前国唐津住
河内守源本行作
元禄十一犬虎天
八月吉日
鑑定区分
特別重要刀剣
刃長
70.8
所蔵・伝来
刀剣ワールド財団
〔 東建コーポレーション 〕