全国にある日本刀

近畿地方にある刀

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近畿地方は、本州の中西部に位置し、飛鳥時代の難波京(なにわきょう)から、平城京、平安京、そして明治維新によって東京が首都となるまで王城の地でありました。現在でも関西圏を指す「上方」(かみがた/かみかた)と言う呼び名は、「皇居のある方角」の意味を持ち、長く近畿地方が都であったことを示しています。なかでも、都の置かれた京都府や奈良県、また商業都市として栄えた大阪府には優れた刀工が集い、数多くの名刀が輩出されました。

近畿地方にある刀

近畿地方

近畿地方

近畿地方とは、山城国・丹波国・丹後国(現在の京都府)、大和国(現在の奈良県)、摂津国・河内国・和泉国(現在の大阪府)、播磨国・但馬国(現在の兵庫県)、近江国(現在の滋賀県)、伊勢国・伊賀国・志摩国(現在の三重県)、紀伊国(現在の和歌山県)のことです。

なお、旧国名と現在の府県との境界は同じではなく、例えば摂津国は現在の大阪府北西部と兵庫県南東部を含んでいます。

この近畿地方には、「五箇伝」(ごかでん)の伝法の中で最初に興った「大和伝」(現在の奈良県)と、都での刀の需要に応えた「山城伝」(現在の京都府)がそれぞれ繁栄を極め、さらに江戸時代前期には大坂(現在の大阪府)を拠点とした刀工達によって「大坂新刀」が誕生。江戸の刀工達による「江戸新刀」と並んで新刀期の刀工界を牽引しました。

京都府で観たい刀

重要文化財「太刀 銘 安綱」(号 鬼切)

京都府からご紹介する刀は、鬼の腕を落としたと言う伝説を持つ「号 鬼切」(ごう おにきり:「鬼切丸」とも)こと「太刀 銘 安綱」(たち めい やすつな)です。

「鬼切安綱」として知られる本太刀は、八幡宮の祭神である「八幡大菩薩」(はちまんだいぼさつ)から夢のお告げを受けて、「膝丸」(ひざまる:別名「薄緑」)と共に鍛えられた源氏重代の刀(源氏に代々伝わる刀)であり、最初に付けられた名は「髭切」(ひげきり)。鬼切の伝説は「源頼光」(みなもとのよりみつ)が受け継いだときに生まれました。

都で幾人もの人々が行方不明になっているとの噂が広まったある夜のこと。源頼光の重臣「頼光四天王」のひとり「渡辺綱」(わたなべのつな)が主君の使いで出掛けると、一条戻橋(京都府京都市上京区)の上で美女に出会い、家まで送ってほしいと頼まれます。

夜更けに女性がひとりでいるのを訝しんだ渡辺綱ですが、頼みに応じて馬に乗せてあげました。すると、たちまち美女は鬼に姿を変え、渡辺綱の髪を掴んでさらっていこうとするではありませんか。渡辺綱は刀を振るって鬼の腕を切り落とし、その場から逃げることができたのです。

このとき使った太刀 髭切は、鬼を斬った逸話にちなんで「鬼切」へ改名されることとなりました。鬼切安綱の作者である「安綱」は、平安時代中期に伯耆国(現在の鳥取県)で作刀した名工です。日本刀の黎明期に活躍したことから「刀工の祖」とされています。

本太刀は、現在「北野天満宮」(京都府京都市上京区)が所蔵。「北野天満宮宝物殿」の特別展などで公開され、鑑賞することができます。なお、現在本太刀にある銘は、のちに改作された「國綱」です。

鬼切安綱(髭切)
鬼切安綱(髭切)
國綱
時代
平安時代
鑑定区分
重要文化財
所蔵・伝来
坂上田村麻呂→
源頼光→
渡辺綱→
新田義貞→
北野天満宮

奈良県で観たい刀

国宝「金地螺鈿毛抜形太刀」

奈良県奈良市春日野町にある「春日大社」には、毛抜形太刀の最高作とされる国宝「金地螺鈿毛抜形太刀」(きんじらでんけぬきがたたち)が納められています。「毛抜形太刀」とは、刀身と柄が一体となった太刀の一種で、平安時代中期頃に登場しました。

柄の部分に毛抜形の透彫があることから毛抜形太刀と呼ばれています。本太刀は錆によって鞘から抜けず、刀身を観ることはできません。一方、外装の装飾金具には純度の高い金を多量に使用。

仏教における想像上の植物「宝相華」(ほうそうげ)などが彫刻され、鞘は螺鈿(らでん:真珠光沢のある貝殻の内側を使った装飾技法)によって、竹林で雀を追いかけて捕まえるまでの猫の動きが連続的に表現されています。金地螺鈿毛抜形太刀は、日本の螺鈿表現の作品としても最高傑作と謳われる1振なのです。

本太刀は、平安時代末期の公卿(くぎょう:国政を担う太政官の最高幹部)「藤原頼長」(ふじわらのよりなが)が作らせ、春日大社に奉納したと伝えられています。藤原頼長は何事にも妥協しない厳しい性質であったことから「悪左府」(あくさふ)の異名を取るものの、一面では猫好きとしても知られる人物です。

金地螺鈿毛抜形太刀は2016年(平成28年)に「東京国立博物館」(東京都台東区上野)の特別展で公開されました。今後も公開される機会があれば、ぜひ鑑賞したい貴重な刀です。

金地螺鈿毛抜形太刀
金地螺鈿毛抜形太刀
時代
平安時代
鑑定区分
国宝
所蔵・伝来
藤原頼長→
春日大社

大阪府で観たい刀

重要文化財「刀 銘 小野繁慶/奉納接州住吉大明神御宝前」

大坂新刀と双璧を成す江戸新刀の名工「野田繁慶」(のだはんけい)の作品が、「住吉大社」(大阪府大阪市住吉区)に所蔵されています。それが「刀 銘 小野繁慶/奉納接州住吉大明神御宝前」(かたな めい おのはんけい/ほうのうせっしゅうすみよしだいみょうじんごほうぜん)です。

野田繁慶は三河国(現在の愛知県東部)に生まれ、江戸時代初期に活躍。本名を「小野善四郎」と言い、本刀の銘には小野姓が切られています。作風は、沸(にえ)深い刃文に金筋・砂流しが盛んにかかる「相州伝」です。「ひじき肌」と呼ばれる独自の地鉄(じがね)に特徴があり、大板目で、地沸地景がしきりに入り、海藻のひじきに似ていることから名付けられました。

野田繁慶はもともと鉄砲鍛冶であったことから、地鉄には鉄砲の鍛法を用いたのではないかと考えられています。本刀は、江戸幕府2代将軍「徳川秀忠」に命じられて鍛えた奉納刀のうちの1振です。長さ81.81cmと長大で、地鉄にはひじき肌が現れ、地沸厚く付き、刃文は互の目乱(ぐのめみだれ)に(よう)がよく入って荒沸付き。

匂口(においぐち)は沈みごころと言う野田繁慶らしい特色のある作品となっています。野田繁慶の刀は、この住吉大社の他に、高野山の「金剛三昧院」(和歌山県伊都郡)に2振、出雲の「日御碕神社」(ひのみさきじんじゃ:島根県出雲市)に1振が納められました。

刀 銘 小野繁慶/奉納接州住吉大明神御宝前
刀 銘 小野繁慶/奉納接州住吉大明神御宝前
小野繁慶/奉納接州住吉大明神御宝前
時代
江戸時代
鑑定区分
重要文化財
所蔵・伝来
徳川秀忠
(小野繁慶)→
住吉大社

兵庫県で観たい刀

重要文化財「刀 無銘 伝長谷部国重」

ここでご紹介する刀は、「長谷部国重」(はせべくにしげ)の作と伝えられる「刀 無銘 伝長谷部国重」です。長谷部国重は、南北朝時代を代表する名工として山城国で活躍。相州伝を鍛え、「正宗」の高弟を指す「正宗十哲」(まさむねじってつ)のひとりにも数えられています。

特に有名な作品は、「織田信長」の愛刀で、無礼を働いた茶坊主を膳棚ごと圧し斬ったとの逸話を持つ国宝「へし切長谷部」です。作風は、精緻で美しい鍛え肌や、明るく冴えた地沸に特徴があり、皆焼(ひたつら)や大乱の刃文を焼きます。

茎尻(なかごじり)まで掻き通した棒樋(ぼうひ)や身幅の広い刀身から感じられる存在感は目を見張るばかりです。現在、「刀 無銘 伝長谷部国重」は「公益財団法人 黒川古文化研究所」(兵庫県西宮市)が所蔵。

2017年(平成29年)には東京都港区六本木の「泉屋博古館 分館」の企画特別展に出展されました。今後の展示については「黒川古文化研究所」の公式ホームページをチェックしてみましょう。

刀 無銘 伝長谷部国重
刀 無銘 伝長谷部国重
時代
南北朝時代
鑑定区分
重要文化財
所蔵・伝来
黒川古文化研究所

和歌山県で観たい刀

重要文化財「短刀 銘 来国光」

和歌山県有田郡広川町にある「廣八幡宮」(2020年[令和2年]に廣八幡神社より復称)が所蔵する「短刀 銘 来国光」(たんとう めい らいくにみつ)をご紹介します。

鵜首造り(うのくびづくり)の刀身に、地鉄は板目肌。刃文は直刃(すぐは)です。「鵜首造り」とは、刀身を峰/棟(みね/むね)側から観ると中央部が細くなっており、鵜の首のように見えることからこの名が付きました。

鎌倉時代や南北朝時代の短刀脇差に多い特徴です。本短刀の作者である「来国光」は、鎌倉時代から南北朝時代にかけて山城国で作刀に携わりました。

「来一門」を代表する名工「来国俊」(らいくにとし)の子とされ、来国光の現存する作品は、多くが国宝や重要文化財に指定されています。とりわけ短刀に優れ、沸が強く付く覇気のある作風が特色です。

短刀 銘 来国光
短刀 銘 来国光
来国光
時代
鎌倉時代
鑑定区分
重要文化財
所蔵・伝来
廣八幡宮

三重県で観たい刀

重要文化財「刀 銘 吉岡一文字」

「吉岡一文字派」は、鎌倉時代末期に興った「備前伝」の刀工一派で、吉井川左岸の赤磐郡吉岡(現在の岡山県久米郡)で活動しました。

開祖は「一文字派」を開いた「則宗」(のりむね)の孫「助吉」(すけよし)。一派は刀工名の頭に「助」の字を用いているのが特徴です。

本刀は無銘ですが、「吉岡一文字」随一の刀工「助光」(すけみつ)の作と極められています。助光は助吉の子、または弟とされ、その技量の高さは吉岡一文字を代表する刀工として申し分ありません。

本刀で最も目を惹くのは、大丁子乱(おおちょうじみだれ)に互の目乱、逆心のある乱れが交じった華やかな刃文。刃中の働きも豊かで、地鉄には乱映りが現れるなど、助光の卓越した技が光っています。

刀剣ワールド所蔵の本刀は、三重県桑名市多度町にある「刀剣コレクション桑名・多度」(ホテル多度温泉)にて展示されていることも。刀剣コレクション桑名・多度では、刀をはじめ甲冑(鎧兜)や火縄銃など歴史的・美術的にも貴重なコレクションの名品を鑑賞することができます。

刀 無銘 吉岡一文字
刀 無銘 吉岡一文字
無銘
鑑定区分
重要文化財
刃長
69.1
所蔵・伝来
刀剣ワールド財団
〔 東建コーポレーション 〕