刀剣の拵を知る

鍔(鐔)の材質、デザイン

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「鍔・鐔」(つば)とは、日本刀に付属する外装「拵」(こしらえ)のなかでも、特に美術的な価値が高いと言われるパーツのこと。鍔・鐔の材質やデザインは、制作された年代や地域、制作者によって様々ありますが、どれも1点物ばかりです。日本刀に欠かせないパーツである鍔・鐔の材質やデザインには、どのような種類があるのか。鍔・鐔の基礎知識と共に、実在する鍔・鐔の材質やデザインをご紹介します。
鍔写真・画像
刀装具のなかでも美術工芸品としての価値が高い「鍔[つば]」を写真から検索できます。

鍔・鐔の基礎知識

鍔・鐔の漢字について

「つば」には、「」と「鐔」の2種類の漢字が使用されますが、古くは鐔の漢字が広く使用されており、現在の刀剣界でも「つば」を記載する際は鐔の字を用いるのが一般的です。一方鍔の漢字は剣道界において使用されています。

なお、和菓子の「きんつば」は漢字で「金鍔」と書くことで知られていますが、もとは「銀鍔」(ぎんつば)と呼ばれていました。その名の由来は、鍔の形状に似ていたため。のちに、大阪から江戸へ伝わるときに「銀よりも金のほうが、景気が良い」と言う理由で「金鍔」へ名称が変更したと言われています。

鍔・鐔の種類

鍔は、制作された年代や地域、制作者によって様々な種類が存在。なかでも代表的なのは、①刀匠鍔(とうしょうつば)、②甲冑師鍔(かっちゅうしつば)、③応仁鍔(おうにんつば)、④尾張鍔(おわりつば)です。

  1. 刀匠鍔(とうしょうつば)

    金沃懸地鞘 毛抜形太刀拵大切羽付鍔(切付銘)表兼吉 兼吉 鍔

    金沃懸地鞘 毛抜形太刀拵大切羽付鍔
    (切付銘)表兼吉 兼吉 鍔

    「刀匠鍔」とは、日本刀の刀鍛冶「刀匠」が刀剣を鍛錬した際に、残った鉄を利用して制作した鍔のこと。

    室町時代に制作されていた鍔で、「櫃孔」(ひつあな)と呼ばれる、刀装具の「」(こうがい:刀の[さや]に付属する道具のひとつで、細長い棒状の小道具)や「小柄」(こづか:刀の鞘に付属する道具のひとつで、細工などに用いるための小刀)を収めるための穴が空いていないのが特徴です。

    また、刀匠鍔は実戦向きに制作されていたため、飾り気はほとんどありません。後世になって制作される鍔と比較すると、質実剛健な印象を与えるのがポイントです。

  2. 甲冑師鍔(かっちゅうしつば)

    桜花透かしの甲冑師鍔

    桜花透かしの甲冑師鍔

    「甲冑師鍔」とは、甲冑(鎧兜)を制作する職人「甲冑師」が、上級武士の注文によって制作した鍔のこと。

    鎌倉時代から江戸時代までの期間に制作されましたが、その全盛期は戦国時代です。当時作られた鍔のほとんどは、甲冑師系の職人によって制作されたと言われています。

    甲冑師鍔は、刀匠鍔と比較して装飾性が高いのが特徴。その表面には縁起物の動植物や、仏教に関する彫刻などが彫られました。

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  3. 応仁鍔(おうにんつば)

    応仁鍔

    応仁鍔

    「応仁鍔」とは、1467年(応仁元年)に起きた「応仁の乱」の頃から京都を中心に全国各地で制作された鍔のこと。なお、名称自体は明治時代に付けられました。

    その特徴は、刀匠鍔や甲冑師鍔と比較して小形となっている点。

    また、制作されていた時代が戦乱であったにもかかわらず、当時としては貴重な輸入品である「真鍮」(しんちゅう)が使用されていたため、上級武士や権力者から珍重されていたと言われています。

  4. 尾張鍔(おわりつば)

    時計鍔

    「尾張鍔」とは、戦国時代に尾張国清州(現在の愛知県名古屋市)を中心に制作された鍔のこと。

    当時、尾張国は美濃国(現在の岐阜県)とともに、軍需工業地帯として重要な地域と見なされていました。

    「透鍔」(すかしつば:鍔の表面をくり抜いて模様を付けた鍔)や「時計鍔」(とけいつば:輸入品の時計をモチーフにした鍔)など、個性的な鍔が多く制作されたのが特徴。

鍔・鐔が販売されている場所

鍔は、日本刀の売買を行っている「刀剣商」(とうけんしょう)で主に販売されていますが、ネットオークションやアンティークショップの通販サイトなどでも購入することが可能です。

また、昨今の刀剣ブームによって本物の鍔以外にも、ジョークグッズをはじめとして、コースターや付箋など、鍔をモチーフにした様々な小物やアクセサリーを取り扱う店舗も増えています。こうしたグッズは、通販で買うことができるため、日本刀好きの家族や友人への贈り物としておすすめです。

全国の刀剣商(刀剣買取・販売店)リンク
日本全国の刀剣商(刀剣買取・販売店)リンクを一覧でご覧頂けます。

鍔・鐔の材質とデザイン

鍔・鐔の材質

現存する鍔の多くは、鉄や銅を中心とした合金や複数の材質を組み合わせて作られています。なかには制作当時に高級品とされていた真鍮や、純度の高い金をそのまま材質として制作された鍔もありますが、そうした鍔は実用に不向きであり、ほとんどが鑑賞用でした。また、金属以外にも革や動物の角を材質とした鍔も存在しますが、鉄と比較すると強度などが落ちると言われています。

鍔・鐔のデザインと意味

鍔に施される模様には、様々な意味や願いが込められました。鍔のデザインとして多く採用されているのは①植物、②家紋、③人物、④動物、⑤様々な模様の5種類です。

  1. 植物

    銀覆輪 菊花舞い散し文図鍔

    鍔のデザインに用いられる植物で、特に多いのは「松竹梅」や「菊花」、「牡丹」(ぼたん)。「松竹梅」は、言わずと知れた縁起の良い植物として有名です。

    松は長寿を象徴する植物。竹は子孫繁栄を意味する植物で、松と竹は平安時代の頃から縁起物と認識されており、セットで門松として飾られていたと言われています。また、梅は冬を乗り越えて春に花を咲かせる生命力の強さから、出世・開運の象徴と見なされていました。

    「菊花」は、墓前に供える花と言うイメージが強いですが、実は縁起が良い植物です。9月9日の「重陽の節句」は、別名「菊の節句」とも呼ばれている他、菊は日本の国花にも選ばれています。また、菊は「不老不死」や「延命長寿」、「邪気払い」などの意味があるため、日本だけではなく中国でも非常に好まれました。

    「牡丹」は、「百花の王」や「花中の王」とも呼ばれる、「幸福」や「高貴」などを象徴する植物です。日本では、文学作品や絵画をはじめとして家具や着物、漆器、家紋など、様々な場所で広く用いられています。

  2. 家紋

    黒石目地塗鞘
    薩摩拵 鍔

    家紋は、その人物の家柄や地位、家系などを象徴する日本特有の紋章です。家紋を鍔に入れる場合、鍔全体を家紋に見立てたり、家紋で使用される動植物や小道具を図柄の一部に入れたりしました。

    現存する鍔のなかには、「なぜ、この図柄を入れたのか」と疑問が湧くことがありますが、その場合は家紋をあしらっていることが多いです。

    武将の家紋一覧
    有名武将や偉人など、「主な江戸100藩」に掲載している、各藩(最終藩主)が使用していた家紋を一覧で掲載しております。
  3. 人物

    三聖人図金銀象嵌鉄地鍔

    家紋の図柄にはしばしば著名な戦国武将や、物語に登場する人物などが採用されます。

    鍔に人物が描かれる理由は、その人物の逸話にあやかって縁起を担いでいる他、鍔の制作者が美術工芸品として自身の技巧を発揮するためなど様々。

    特に物語の一場面を描いた鍔は、愛好家からも人気が高いです。

  4. 動物

    赤銅魚子地 双駒放牧図鍔

    鍔に施される図柄で、植物とともに多く見られるのが、縁起が良いとされる動物の図柄。例えば、「馬」。馬は、神社では「絵馬」として奉納される、「神様の乗物」です。また、戦国武将にとって馬は「勝ち馬」などの言葉からも分かるように、戦の勝敗をも左右する重要な存在でした。

    現在でも、馬の蹄鉄(ていてつ)をUの字向きに飾っておくと、そのくぼみに福が集まると言われています。

    また、「長寿の象徴」として有名な「鶴」や「亀」のほか、十二支の動物などは鍔の図柄として大人気。この他にも、縁起を担ぐために「麒麟」(きりん)や「竜」、「獅子」(しし)などの霊獣(れいじゅう)と呼ばれる伝説上の動物も鍔にあしらわれています。

  5. 様々な模様

    桐紋図揃金具
    腰笛巻青貝微塵塗鞘 打刀拵 鍔

    特定の動植物や小道具ではなく、美しい紋様が施されるのも鍔の特徴のひとつ。その多くが、植物の蔓(つる)や大海原の波などを図案化しています。

    なお、一見すると単なる模様にしか見えないデザインの鍔が実は家紋の文様をびっしりと散りばめた図柄であることも。そのため、鍔を鑑賞する際はどのような模様をかたどっているのか、じっくりと観察することが推奨されます。