刀剣を鑑賞する

日本刀の手入れ・保管

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日本刀は、しっかりと手入れをし適切な保管場所で管理すれば、その美しい姿を何百年も先まで留めることができる美術品です。はじめて日本刀を手に入れた直後は、上手に手入れができないのではと不安が生じるかもしれません。しかし、日本刀の手入れは慣れると1振あたり数分で行うことができるほど意外と簡単です。日本刀の手入れと保管に関する基礎知識をご紹介します。

日本刀の手入れ

手入れをする意味とは?

日本刀の原料は鉄です。そのため、手入れを怠ると錆びてしまう恐れがある他、錆びた結果、(さや)や(つか)から取り出すことができなくなる場合も。錆を防ぐためには、適切な手入れを行うことが重要です。

なお、錆びた日本刀は「その錆を二度と落とすことができない」と言うわけではありません。研磨を行う職人「研師」(とぎし)に依頼をすれば、錆を落とすことが可能ですが、その錆を除去するためには、刀身の表面を研磨しなければならないのです。刀身を研ぐと言うことは、刀身の厚みである「重ね」が減るだけではなく、場合によってはその刀自体の価値が下がることにも繋がります。

博物館や美術館をはじめ、神社・仏閣などで保管されている日本刀は、その多くが作刀された当時の美しい姿を保っていますが、これはその刀の管理者が適切に手入れを行い、また日本刀を最適な場所で保管していたためです。これから日本刀を所有したいと言う方は、手入れの仕方やその重要性などをしっかりと学んでから所有することをおすすめします。

手入れをする頻度

日本刀の手入れは、3ヵ月に1度行うのが理想的です。また、鑑賞と手入れは基本的にセットで行います。そのため、鑑賞することが好きであればそれ以上の頻度で手入れを行うことになりますが、多少多く手入れを施しても特に問題はありません。それよりも問題なのは、多忙のあまり手入れを行う頻度が減ってしまうことです。手入れの仕方や保管場所次第ではそう簡単に錆びないと言われていますが、刀を管理する際は、前回の手入れ日と次回の手入れ予定日をカレンダーなどにメモすることをおすすめします。

なお、研いだばかりの刀や作られたばかりの刀は錆びやすいと言う欠点が存在。そのため、研いでから3ヵ月の間は1週間に1度。そのあと4~6ヵ月までは2週間に1度。7~12ヵ月の間は3週間に1度。13~24ヵ月までは4週間に1度の頻度で手入れを行うと良いと言われています。

手入れに必要な道具

日本刀の手入れに必要な道具は、①目釘抜き(めくぎぬき)、②丁子油(ちょうじあぶら)、③拭紙(ぬぐいがみ)、④打粉(うちこ)、⑤ネル布の5つ。

目釘抜き

目釘抜き

目釘抜き

「目釘抜き」とは、「目釘」(めくぎ:刀身の[なかご:柄に収める部位]と柄を固定するための留め具)を抜く際に必要となる道具のこと。

一般的にハンマーのような形状をしており、目釘を抜く際は軸となる長い棒の方を目釘に差し込んだり、俵型のヘッド部分を目釘に当ててグッと力を入れたりすると抜けます。

丁子油

丁子油

丁子油

「丁子油」とは、刀身が空気に触れないように被膜を作る油のこと。表面にうっすらと塗る程度で良いため、その使用量はごく僅かです。

市販されている「手入れ道具セット」に付属している場合は小瓶が多いですが、小瓶であっても数年間は持ちます。

拭紙

拭紙

拭紙

「拭紙」とは、油を拭うための紙のこと。「奉書紙」(ほうしょし/ほうしょがみ)と呼ばれる紙が用いられることが多いですが、奉書紙は高価であるため、保湿成分が含まれていないやわらかいティッシュペーパーや、眼鏡拭きなどの「マイクロファイバークロス」で代用することが可能です。

なお、拭紙は手入れの最初に古い丁子油を拭う「下拭用」と、「打粉」を拭う「上拭用」の2種類が必要となります。

打粉

打粉

打粉

「打粉」とは、古い油を取るための道具のこと。棒の先端に丸められた布が付いており、その布のなかには砥石の粉末が入れられています。

使用する際は、刀身をポンポンと軽く叩くことで粉末を刀身に付着させますが、このとき打粉を付けすぎると、刀身を拭紙で拭った際に刀身が傷ついてしまう恐れがあるため、付けすぎないのがポイントです。

ネル布

ネル布

「ネル布」とは、「油布」とも呼ばれる、丁子油を染み込ませるための布のこと。

手入れの最後に仕上げとして、刀身に丁子油を塗り直しますが、その際に使用する布です。

手入れの手順 ①鑑賞前に行う手入れ

日本刀の手入れは、難しいと思われがちですがじつはそんなに難しくありません。鑑賞する前後に行う手入れをマスターすることが、愛刀を永く楽しむポイントになります。

鑑賞をする前に手入れをする理由は、以前塗った古い油などが残ったままでは刀身の表面が曇ってしまってしっかりと観ることができなくなるため。日本刀本来の美しい刀身を観るには、鑑賞前の手入れが不可欠なのです。

  1. 刀を抜く

    手順 画像
    (1)
    柄をしっかり握り、日本刀を刀袋(かたなぶくろ:日本刀を保管する際に入れておく袋)から取り出す。

    日本刀を刀袋から取り出す

    (2)
    柄と鞘の根元部分を刃が上になるようにしっかりと握り、鯉口(こいくち:鞘の入り口にあたる部分)を切る。鯉口が堅い場合は、鯉口のラインに左右の手を沿わせて上から握り込むと鯉口が切れる。

    鯉口を切る

    (3)
    鞘の根元を握り、膝で支えながら柄を手元へ引く。(むね:刃と反対側の、物を切ることができない部位)の反りに合わせて慎重に引き抜く。

    このとき、刃を寝かせて抜いてしまうと余計な力がかかり、刀身と鞘がこすれて刀身が傷付く恐れがあるため注意する。

    柄を引く

  2. 柄を外す

    手順 画像
    (1)
    柄をしっかりと握り、目釘抜きの軸の部分で目釘を押す。反対側から目釘が飛び出るので、目釘を外す。抜いた目釘はなくさないように注意する。

    目釘を抜く

    (2)
    柄の下の部分を握って刀を斜めにし、柄を握った手の手首を叩く。反動で刀身が柄から浮くため、柄を外す。

    手首を叩いて柄を外す

    (3)
    (はばき:刀身と鞘の接触を防ぐ金具)の中心部をしっかりと掴み、下へずらして外す。このとき、外した柄、目釘、鎺をなくさないようにまとめておく。

    鎺を外す

  3. 油を拭う、打粉を打つ、打粉を拭う

    手順 画像

    (1)
    しっかりと茎を持ち、よく揉んでやわらかくした拭紙(下拭用)で横から刀身を挟むように持ち、拭紙を下から上へ動かす。

    拭紙(下拭用)で油を拭う

    (2)
    打ち粉を下から上へぽんぽんと打っていく。うっすらと粉が付く程度で良い。

    このとき、打ち粉を打ち過ぎた場合は拭紙(上拭用)で払う前に、粉をはたき落とす。

    打粉を打つ

    (3)
    茎をしっかりと握り、よく揉んでやわらかくした拭紙(上拭用)で横の方から刀身を挟むように持ち、打粉を拭う。

    このとき、棟の部分を拭い忘れることがあるため、棟部分もしっかり拭っておく。

    拭紙(上拭用)で打粉を拭う

手入れの手順 ②鑑賞後に行う手入れ

鑑賞したあとにも、手入れを行います。ここで誤った手入れをしてしまうと、錆の原因になるため、各ポイントをしっかりと押さえることが重要です。

  1. 油を引く

    手順 画像

    (1)
    ネル布(油布)に丁子油を染み込ませる。

    ネル布に丁子油を染み込ませる

    (2)
    茎をしっかりと握り、ネル布(油布)で棟の方から挟み込むように持って、下から上へ丁子油をひいていく。このとき、刃の部分で手を切らないように注意する。また、丁子油が全体的に均一になるよう、薄く延ばしていくのがポイント。

    古い時代の刀は、茎の風合いも鑑賞の対象となるので、茎に丁子油を塗る必要はない。また、棟の部分に丁子油を塗り忘れると、この部分から錆が発生してしまうため注意が必要。

    丁子油を棟に塗る

    丁子油が鞘に染み込むと鞘を傷めてしまうため、塗りすぎは厳禁。
    塗りすぎた場合は、綺麗な拭紙(下拭用)で薄く被膜ができる程度まで拭う。

  2. 鎺・柄をはめる

    手順 画像

    (1)
    茎をしっかり持ち、鎺を入れる。鎺は厚みがある方が茎側。

    鎺を嵌める

    (2)
    鎺の中心をしっかり持ち、柄を嵌める。柄を下から叩くと反動で柄と鎺が嵌まる。

    柄を嵌める

  3. 納刀する

    手順 画像

    (1)
    柄をしっかり握って目釘を差す。

    目釘を差す

    (2)
    刃を上にして納刀する。

    納刀する

    (3)
    刀袋に入れて保管する。

    刀袋へ入れる

手入れ道具が売っている場所

日本刀の手入れ道具は、刀剣店で購入することが可能です。ビギナーに特におすすめなのは、丁子油や目釘抜きなどの手入れ道具が一式揃った「手入れ道具セット」。自宅で手入れを行う際は、このセットがひとつあるだけで十分活躍します。

手入れに関する注意点

白鞘(鞘書)

日本刀は、「白鞘」(しらさや)と呼ばれるシンプルな見た目の外装に入れて保管するのが一般的です。白鞘とは、「休め鞘」や「日本刀の寝間着」とも言われる外装のことで、その素材は軽く、湿気と乾燥をコントロールできる「ホオノキ」が使われています。

ホオノキで作られた白鞘は、ぶつけて凹ませてしまった場合、お湯を含ませた布でぽんぽんと叩き、軽く水分を染みこませると再生すると言う特性があります。

しかし、その一方で乾燥する冬の時期になると締まってしまうと言う欠点も存在。冬場は白鞘から刀身が抜きづらくなるため、刀身を抜く際は誤って怪我をすることがないように、十分に注意する必要があります。

日本刀の保管

日本刀を保管する場所

折紙

折紙

日本刀は、熱と湿気に弱いため、日の当たる場所や湿気の多い場所に長時間置いておくのは厳禁です。飾らないときは刀袋に入れて、湿気が少なく、涼しい場所に保管します。

また、保管する際は必ず横向きに置くのもポイント。もし壁などに立て掛けてしまうと、地震などで倒れた際に白鞘や刀身が傷んでしまう他、床と接している部位に圧力が掛かって傷むなどの恐れがあるのです。

付属する登録証や日刀保(日本美術刀剣保存協会)で発行される鑑定証・指定証は、クリアファイルに入れて一緒に刀袋へ入れておけば、必要なときにすぐに取り出せます。また、古い日本刀で「本阿弥家」(ほんあみけ:刀剣鑑定を生業としていた一族)の「折紙」(おりがみ:正真保証の意味を持つ鑑定証)が附属している場合がありますが、折紙自体も歴史的・文化的に大変価値が高いため、折り目の通りに折って丁寧に保管しておくことも忘れずに。

保管する際の注意点

日本刀を購入した際は、「刀剣の外出着」と言われる(こしらえ)が附属することが多いです。拵そのものも、美術品として大切に扱うべきですが、古い時代に制作された拵に刀身を入れるのはおすすめできません。何故なら、拵は木で作られていることから、そのなかが綺麗な状態ではなくなっている可能性があるためです。拵は、掃除や修復ができる構造とはなっていないため経年劣化は仕方がないのですが、ここに刀身を入れてしまうと刀身が汚れるだけではなく、最悪の場合は刀身に傷が付くことも。

そのため、刀身は白鞘に入れて保管するのが一般的です。刀身が入っていない拵は、(つば)や柄がバラバラになって紛失してしまう恐れがあるため、「繋ぎ」(つなぎ)と呼ばれる木型の刀身を収めます。

なお、拵には金襴の織物で作られた刀袋が附属することもありますが、金襴生地は湿気に弱いと言われているため、刀袋自体にも湿気対策が必要となる場合も。現在では、ナイロン製や革製などの刀袋もあるため、必要に応じて買い替えるのがおすすめです。