天下三名槍 - 名古屋刀剣ワールド
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天下三名槍(てんがさんめいそう/てんかさんめいそう)とは
「天下三名槍」とは、「天下三槍」(てんかさんそう)とも呼ばれる3口の槍「蜻蛉切」(とんぼきり)、「御手杵」(おてぎね)、「日本号」(にほんごう/ひのもとごう)のことです。
戦国時代を舞台にしたゲームや漫画などではその名がたびたび登場するため、ゲームファンやアニメファンのなかにも、槍の名前だけは知っていると言う人も少なくありません。3口はそれぞれ異なる武将が所有していましたが、いずれの人物も武勇に秀でた武将として著名であったことから、愛用していた槍にまつわる逸話が残されています。
なお、3口のうち「蜻蛉切」と「日本号」は現存しますが、「御手杵」だけは太平洋戦争の際、東京大空襲に遭い焼失してしまいました。しかし、のちに現代刀匠によって「写し」(本物に限りなく似せて作られた刀)が作刀されているため、現在でも「御手杵の写し」を観ることは可能です。
蜻蛉切(とんぼぎり)
名称の由来
刀身の特徴
槍は、刀身の形状によって様々な種類がありますが、蜻蛉切は「大笹穂槍」(おおささほやり:刀身の形状が笹の葉に似た槍)に分類されており、天下三名槍のなかでも最も切れ味が優れていた槍として有名です。
蜻蛉切の刀身には、「樋」(ひ:刀身に彫られる、溝のような細長い彫物)が掻かれており、そのなかには梵字(ぼんじ:インドで誕生した、神仏を一字で表す文字)と三鈷剣(さんこけん:悪気や煩悩から身を守る密教法具)が彫られています。
梵字は、樋のなかと外、あわせて4つ彫られており、鋒/切先(きっさき)側から順に「地蔵菩薩」を意味する「カ」、「阿弥陀如来」を意味する「キリーク」、「聖観音菩薩」を意味する「サ」、三鈷剣を挟んで最下部にあるのが「不動明王」を表す長梵字「カンマン」です。
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地蔵菩薩(カ)、阿弥陀如来(キリーク)、聖観音菩薩(サ) -
カンマン
作刀者について
御手杵(おてぎね)
名称の由来
「御手杵」は、下総国(現在の千葉県北部、茨城県の一部)の結城城主「結城晴朝」(ゆうきはるとも)が所有していた槍です。正式名称は「槍 銘 義助作」。号の「御手杵」は、鞘(さや)の形状が手杵(てぎね:餅つきに使う道具)に似ていることから来ています。手杵形の鞘が作られた逸話は刀剣愛好家の間でも有名です。
結城晴朝が戦場から帰還するときのこと。結城晴朝は、戦場で挙げた十数個の首級(しゅきゅう:討ち取った敵の頭部)を槍に刺して帰路を進んでいましたが、しばらくすると槍の真ん中あたりに刺してあった首がひとつ転がり落ち、そこだけ刀身が剥き出しになりました。その様子が手杵のように見えたことから、結城晴朝は手杵形の鞘を作ったと言われています。
刀身の特徴
作刀者について
日本号(にほんごう/ひのもとごう)
名称の由来
「日本号」は、「呑み取りの槍」と言う別名でも知られる、「豊臣秀吉」の家臣「福島正則」が所有していた槍です。日本号はもともと、朝廷が所有していた「御物」(ぎょぶつ:皇室の私有品)でした。槍でありながらも、「正三位」(しょうさんみ)の位を賜ったと言う伝承から「槍に三位の位あり」と謳われるほどの名槍で、のちに室町幕府15代将軍「足利義昭」に下賜されます。その後、足利義昭から「織田信長」へ、織田信長から豊臣秀吉に下賜され、豊臣秀吉から福島正則へ。最終的には、福島正則から黒田家へと渡りました。
別名である「呑み取りの槍」は、福島正則から黒田家家臣の「母里友信」(もりとものぶ)のもとへ渡った際の逸話が由来となっています。福島正則と母里友信は、ともに「槍の名手」であり、「酒豪」としても名を馳せていました。
あるとき、母里友信が使いとして福島正則の屋敷へ訪れたときのこと。「母里友信が酒豪である」と言う噂を聞いていた福島正則が母里友信へ酒を勧めますが、母里友信は「使いの途中であるから」と、これを拒否します。すると、福島正則は「では、賭けをしよう。母里殿が酒をすべて飲み干したならば、望む物をなんでもやろう。それとも、黒田家の武士は酒も呑めない腰抜けなのか」と挑発しました。
母里友信は仕方なく、酒を呑むことを承諾。そして、出された酒をすべて飲み干し、福島正則との賭けに勝つ形で終わりました。駆けに勝った母里友信は、日本号を所望し、福島正則から名槍を受け取ったのです。
この逸話から「呑み取りの槍」という別名が付けられ、民謡「黒田節」が生まれました。
刀身の特徴
日本号は、「大身槍」(おおみやり)に分類されています。大身槍とは、穂が長い槍のことで、柄の形状は扱いやすいように穂よりも短く太くなるのが特徴です。なお、穂の長さが長大になれば重量が増し扱いにくくなるため、大身槍を扱うことができたのは筋力と腕力が優れた槍の使い手だけだったと言われています。
日本号の刀身に施されている刀身彫刻は「倶利伽羅龍」(くりからりゅう)。倶利伽羅龍は、不動明王が右手に持つ剣に巻き付いている龍のことで、不動明王の象徴そのものでもあります。不動明王は、軍神・炎の神として知られており、火を扱う刀工にとって守護神のような存在でした。そのため、刀の刀身に施されることがよくあるのです。