日本刀職人の仕事

研師の仕事

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研師には、刀を専門とする研師と、包丁やハサミを研磨する研師がいます。刀を専門とする研師の仕事は、さらに2種類に大別され、刀工が打った刀を磨き、刃文(はもん)や地鉄(じがね)を美しく仕上げるものと、古い刀の錆などを取り除き、美しい輝きを取り戻させるものがあるのです。研師の仕事がどのようなものなのか、そしてどのような道具を用いて研磨を行うのかをご紹介します。

研師とは

研師の行う仕事

研師

研師

研師とは、一般的に刃物の研磨を行う職人のこと。研師は主に2つに大別され、刀の刃文(はもん)などを美術作品として美しく仕上げるための刀専門の研師と、理美容師が扱うハサミや剃刀、調理師や家庭用の包丁を研磨する研師に分けられます。

現代の研師は主にハサミや包丁を扱う研師が多数ですが、少数ながらも刀の研磨を専門にしている研師も存在しているのです。刀専門の研師の仕事には、刀工が新しく打ち上げた刀の仕上げとしての研磨を行う場合と、古い刀を研磨して、美しさを取り戻させる場合の2種類があります。

刀が実戦で用いられていた時代には、刀の切れ味を高めるための研師も存在しましたが、刀が美術品として鑑賞される時代になると切れ味を求めるための研師は衰退し、刀身の美しさを引き出す技術が発展していきました。

近年では鑑定書の取得を目的とした研磨が行われるようになっていますが、刀の研磨は刀身をすり減らしていく行為でもあるため、錆や腐蝕を落とすなど、刀を保護する以外の目的での研磨には注意が必要です。

研師になるには

現在刀を専門にする研師は、全国に50名程度だと言われています。研師になるには、刀工とは違い定められた研修や国家資格などが必要ないため、一定期間師匠の下で修業をするか、研磨専門店などが主催する講習会などに通うことが必要。

また、研師には研磨の仕方や技術だけではなく、刀をはじめとする美術の知識も必要になるため、大学や専門学校などで学ぶ機会なども必要になります。現代の研師で有名なのが、室町時代から刀の鑑定や研磨などを行っている「本阿弥家」の本阿弥流と、昭和初期に鑑定や刀剣商として知られることになった藤代流の2大流派。本阿弥家では現在25代の「本阿弥光洲」(ほんあみこうしゅう)が人間国宝に認定されています。

刀剣研磨の工程

刀の研磨は、粗い目の砥石から細かい目の砥石に徐々に持ち替えながら、手作業で行われる作業です。研磨の工程は下地研ぎと仕上げ研ぎの2種類の段階に分けられ、特に下地研ぎでは使われる砥石の名前で作業が呼び分けられています。

古い刀を研磨する際の作業にはおよそ10日から2週間の時間がかかりますが、刀匠からの打ちおろしや、錆のひどい刀の場合はさらに時間がかかることもあるのです。

下地研ぎ

下地研ぎとは、主に刀身の表面を整える研磨のこと。目の粗い砥石から目の細かい砥石へと変えながら行います。研ぎ台に前屈で構えて研磨する姿勢が独特です。下地研ぎに使われる砥石の種類と研ぎの工程を見ていきましょう。

金剛砥

金剛砥(こんごうど)は、ひどく錆が付いているときや、荒砥まで終わっている打ちおろしの刀身に用いられます。粒度120番、180番、220番に相当するかなり目の粗い砥石です。

備水砥

備水砥

備水砥

備水砥(びんすいど)は、一般的な刀身を下地研ぎする際に一番はじめに用いられる砥石。この工程では(むね)、(しのぎ)、地、鋒/切先(きっさき)の順に研いでいき、錆びを取り除き刀の姿や肉置(にくおき:鎬地を除いた刀身の厚み)を整えます。

明治維新以前は常見寺砥、その次は伊予砥が使われていましたが、質の低下により現在は備水砥や、400番程度の人口砥が用いられることが増えました。

改正名倉砥

改正名倉砥

改正名倉砥

改正名倉砥(かいせいなぐらど)は、備水砥で研いだ際に付けられた砥石目(といしめ:研いだ跡)を消すために用いられます。

山形県で採掘されていましたが、現在は資源が枯渇してしまったため、通常は800番程度の人口砥が用いられるようになりました。

中名倉砥

中名倉砥

中名倉砥

中名倉砥(ちゅうなぐらど)では、改正名倉砥の砥石目を消し、姿を整えます。

中名倉砥は愛知県で採掘され、現在でも多く産出されている砥石です。

細名倉砥

細名倉砥

細名倉砥

細名倉砥(こまなぐらど)は、名倉砥のなかで最も細かい目の砥石で、ここでは砥石目をすべて消す工程。

2000番程度の人口砥に相当し、天然の細名倉砥を使用すると地肌がつぶれず、内曇砥(うちぐもりど)で研磨する際と同様に地刃が見えるほど美しく研ぐことができます。

内曇砥

内曇砥は京都近辺で採掘される砥石で、肌が細かくやわらかいため研磨をすることで地刃が白く輝きます。内曇砥は下地研ぎの最終段階で、刃砥(はど)と地砥(じど)の2種類が存在。刃砥よりも地砥の方が硬く、地砥では鍛え肌や地沸地景など刃中の働きを引き出すのです。なお、内曇砥を用いることを「内曇を引く」と表現します。

  • 内曇刃砥

    内曇刃砥

  • 内曇地砥

    内曇地砥

仕上げ研ぎ

仕上げ研ぎとは、下地研ぎで現わした地鉄をより美しく魅せたり、地刃の色調を整えたりする工程です。下地研ぎの際とは体勢が変わって、腰掛に座り、研ぎ箱の上で作業をします。

刃艶

刃艶

刃艶

この工程ではまず、刃艶(はづや)に用いるための刃艶砥(はづやど)と呼ばれる砥石を作成。刃艶砥は内曇砥を水に浸してやわらかく割いたものを「大村砥」(おおむらと)や「青砥」(あおと)でさらに薄くなるように磨上げ、吉野紙と呼ばれる和紙と漆で裏打ちした物のことです。

直径1cmほどの大きさで刃の部分を研磨するもので、内曇砥の砥汁を刀身に付けながら親指で押し滑らせるように研磨することで沸(にえ:白い砂粒のように粒子が粗く見えるもの)や匂(におい:霞のように粒子が細かく見えるもの)を導き出します。また、刃艶砥は「刃取り」と呼ばれる工程でも用いられる砥石です。

地艶

地艶(じつや)は肌模様や地沸など、地鉄の働きのすべてを引き出す作業を言います。地艶砥(じづやと)には、「鳴滝砥」(なるたきど)を1mm以下の薄さにした物を和紙で裏打ちした「張り地艶」(はりじつや)と、裏打ちをせずに鳴滝砥を爪の先で細かく砕いて用いる「砕き地艶」(くだきじつや)の2種類が存在。親指で地艶砥が逃げないように注意しながら行われます。

拭い

拭いは、鉄肌拭い(かなはだぬぐい)を刀身に付着させ、「青梅綿」(おうめわた)と呼ばれる上質の綿で拭い込むように磨く作業です。鉄肌拭いとは、刀工のもとで行われる「火造り」の際に刀身の表面に出る酸化被膜である「鉄肌」を丁子油や椿油で溶いたもののこと。このとき、流派によって金粉や孔雀石などの粉末が混合されることもあります。

刃取り

刃取り(はどり)は、刃文の白さを際立たせる作業で、刃文に沿って行われるもの。刀工が現わした刃文をいかに美しく際立たせるかが刃取りの工程にかかっており、研師の感性と実力が問われる工程です。本阿弥流では棟側から、藤代流では刃側から取るといったように、流派によって研ぎ方が異なります。

磨き

磨きは鎬地(しのぎじ:鎬筋と棟の間の部分)と棟を磨きつぶしていく作業です。この工程により刀には鏡面的な光沢がもたらされ、鎬の線が際立ち、刃の白さや地の青黒さ、鎬地の漆黒が現われます。

ナルメ

ナルメの語源は明らかではありませんが、江戸時代には行われていたとされる作業のこと。横手(よこて:鎬とつながる、鋒/切先の下の線)と帽子(ぼうし:鋒/切先の刃文)を研磨する工程で、はじめに内曇砥で横手筋を引いてから刃艶砥を使って鋒/切先を白くさせるのです。

流し

流しとは研師のサインのようなもので、帽子の裏棟や、鎺元(はばきもと:刀の鍔元などにある部位)などに入れられます。流しを入れる部位を内曇砥で白くさせてから行われ、帽子の場合は3本、鎺元の場合は7本や11本など、奇数の線を磨き棒で入れるのです。

研師の扱う道具

研師が扱う道具は主に砥石ですが、使用する砥石は様々な種類の物があり、用途によって使い分けています。砥石の他にも存在する細かな道具を見ていきましょう。

下地研ぎに用いる道具

踏まえ木

踏まえ木

踏まえ木

踏まえ木は、砥石を押さえるための木の棒のこと。踏まえ木を足で踏んで、砥石を固定します。

反り具合や太さなど、研師は自分にあった物を自作。荒研ぎ用や中研ぎ用など、それぞれの工程で専用の踏まえ木を用意する場合もあります。

研ぎ桶

研ぎ桶は、研磨作業に必要な水を入れておく桶のことです。正面に配置され、水には藁灰や重曹を入れて、アルカリ性にすることで、研いでいる間に刀が錆びないようにします。

研ぎ台

矯め木

矯め木

研ぎ台は、砥石を乗せる台のことです。上に砥石を乗せて、その上から踏まえ木で固定します。

矯め木

矯め木(ためぎ)は刀身の曲がりを調整するための道具です。極力刀身を減らさないために、曲がりの有無を確認してから研磨に入ります。

仕上げ研ぎに用いる道具

研ぎ箱

仕上げ研ぎに使う台のこと。小簞笥のように引出しが付いており、なかに仕上げ研ぎに使われる道具が入れられていることが多いようです。

研ぎ柄

研ぎ柄は、(なかご)を差込口から挿入し、木の楔で固定して使う刀の持ち手のこと。古い白鞘の柄を改造して使われることが多く、表面に籐を巻いて滑り止めにします。通常研ぎ柄は仕上げ研ぎに用いられますが、短刀の場合は下地研ぎの段階で使われることも。

角粉とイボタ

角粉とイボタは、磨きを行う前に磨き棒の滑りを良くするために用いられる打粉のことです。

磨棒と磨ヘラ

磨棒と磨ヘラは、刀身に金属特有の鏡面の光沢を付けるための磨きで使われる道具。磨きヘラで下磨きを行ったのち、磨棒で中磨きと上磨きを行います。

ナルメ台

ナルメ台は、刀の研磨をする工程の1番最後に行われるナルメにおいて、鋒/切先を白くする作業で用いられる道具です。幅3cm、長さ約20cm、厚さ約4cmの木材に切れ目が入れられて、バネのような弾力性を持っています。