模造刀

模造刀は研ぐと切れるようになる?

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模造刀とは、日本刀の形態を模して制作された、真剣の日本刀とは似て非なる存在。日本刀と模造刀は、素材のみならず制作過程からして異なるため、模造刀を研ぐ行為は、模造刀本来の姿を損なうと同時に「銃砲刀剣類所持等取締法」にも抵触する可能性があります。
しかし、模造刀を少しでも真剣に近づけたい、あるいは、手入れ方法が真剣と同様であると勘違いして研いでしまう日本刀愛好者が多くいるのも事実です。模造刀は研ぐとどうなるか、模造刀の手入れはどのように行なうのかについて説明します。

「模造刀とは」など、日本刀に関する基礎知識をご紹介します。

模造刀を研いだらどうなる?

研師による日本刀の研磨

研師による日本刀の研磨

鉄と鋼の2種類の金属を素材とする日本刀は、焼きながら繰り返し鍛錬をすることで刀身を形成し、焼き入れを行なうという、伝統的な手法で制作されているのが特徴。

この焼き入れに際して刀身に生じるのが刃文であり、刃文は研師(とぎし)の精緻な技術によって刀身表面に浮き上がってくるものです。対して模造刀は、亜鉛(あえん)、真鍮(しんちゅう)、アルミニウムなどの合金類を素材とし、グラインダーによる特殊研磨を行なったのち、メッキ加工を施した物。完成品には刃文が付いていますが、これは刀身を装飾するために人工的に付けられたものであり、実際に刃や刃文が付けられているわけではありません。

このことから、模造刀の刀身を研ぐことは、製品の外観と機能を損なう行為であるとされます。日本刀と模造刀の最大の違いは、刀身の強度。日本刀は鉄や鋼に鋼質性(こうしつせい)を有しているため、研ぐことによって切れ味が増しますが、模造刀は合金製のため、研ぎに耐えることができません。

日本刀とは素材も制作工程も異なる模造刀は、研いでも日本刀のような切れ味になることはない上、研ぐことによって表面のメッキが剥げてしまい、腐食や錆びの原因となります。日本刀の美しさを模した刀身が傷つくことに加え、合金の削りくずも発生し、刀身の強度にも不具合が生じてしまうため、模造刀の研磨はやめましょう。

「研師」をはじめ、日本刀に関する基礎知識をご紹介します。

模造刀と銃刀法

模造刀は非鉄合金で制作されており、切るための刃が施されていません。そのため、日本刀などの所持や取扱を規制する「銃砲刀剣類等所持等取締法」(以下銃刀法)では、模造刀の所持と、業務などの正当な理由がある場合の携帯が許されています。しかし、模造刀は研ぐことによって「人体殺傷が可能になるよう改変を加えた」とみなされ、銃刀法の違反に問われる可能性があるのです。

模造刀は、刃が付いていないために高い殺傷力があるとは言えませんが、模造刀の携帯が厳しく制限されるようになったのは、1970年(昭和45年)に起こった「よど号ハイジャック事件」から。犯人グループが所持していた武器が模造刀や模造拳銃であったことから、模造刀や模造拳銃の携帯が規制されるようになりました。

また、刀を模して制作されたために模造刀とも呼ばれる、軍刀や指揮刀、儀礼刀といった、鋼質性の鉄を素材とする物も存在。これらは刃が潰されているものの、研ぐなどの容易な加工で本来の用途に使用ができることから、真剣の刀剣類として、銃刀法により所持が規制されています。

このことから、模造刀や、日本刀に準ずる物を研いでしまうと、刀身を損なう可能性や、法令違反によって処罰される可能性が極めて高くなるため注意が必要です。

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模造刀の手入れ方法

日本刀は放置しておくと錆びが生じるため、日頃の手入れが必要不可欠。対して、模造刀はメッキ処理が施されているため、鉄と鋼を素材とする日本刀よりも錆びに強いのが特徴です。しかし、刀身が金属であることには変わりないため、放置しておけば湿気などによって劣化が生じてしまいます。そのため、模造刀の手入れはこの劣化を防ぐために行なわれるのです。

模造刀を保管する上でもっとも気を付けるべき点は、水分の付着。日本の国土は多湿であるため、こまめに湿気を拭き取る必要があります。刀身の拭き取りに用いるのは、拭(ぬぐ)い紙という、揉んでやわらかくした良質な奉書紙(ほうしょし)が最適。

その他、水洗いをして糊気を取り、充分に乾かしたネルの布や、最近では良質なティッシュペーパーを使用することもできます。

模造刀の手入れ方法・湿気のふき取り

模造刀の手入れ方法・湿気のふき取り

湿気の拭き取りの仕方は、まず、拭い紙を用意してから刀身を抜き、片手で保持。

このあと、拭い紙を(むね:刃を模倣した部分の反対側)から当て、親指と人差し指で刃に当たる部分を軽く押さえ、刀身に拭い紙を密着させます。あとは軽く抑える程度に力を入れ、鎺元(はばきもと:刃の付け根)から鋒/切先(きっさき)へと拭っていくのです。

この際、刀身に汚れがある場合は、無水アルコール(エチルアルコール)を拭い紙に含ませて拭き取ると良いでしょう。

湿気の拭き取りが終わったら、次は、刀身と湿気を含む空気を遮断し、錆の発生を防止するために油を塗布していきます。使用する油は、古来より日本刀の手入れでも使用される「丁子油」(ちょうじあぶら)が最適。油の塗布方法は次の通りです。

まず、水洗いして乾かしたネル布などの油塗り紙に油を含ませ、刀身の表面にむらなく塗ります。全体に油を塗り終えたら、新しいティッシュペーパーで余分な油を拭き取り、刀身表面に薄い油膜ができればそれで完了。この際、油を塗布しすぎてしまうと、余分な油がを傷める要因となるため、注意が必要です。次に模造刀の手入れをする際には、ここで塗布した古い油も拭き取る必要があります。

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「刀剣手入れ作法」のYouTube動画

刀剣・日本刀の鑑賞ポイント

模造刀のNG行為

日本刀と素材の違う模造刀の手入れは、日本刀と同じ方法でするのは厳禁。研ぐ必要がないのはもちろんのこと、日本刀を手入れする際に、刀身の付着物を取るために使われる打粉(うちこ)も、模造刀の手入れには使えません。

打粉は砥石の微細粉であるため、打粉を塗布して刀身を拭うと、砥石で研ぐことと等しくなります。また、同様の理由で、クレンザーなどの研磨洗剤の使用も厳禁。模造刀の手入れに、打粉やクレンザーを使うことでメッキが剥がれてしまい、刀身の外観が損なわれてしまう上、刀身を傷つけてしまう可能性もあるのです。

模造刀は刀身をメッキ処理しているため、滅多なことでは錆びません。良かれと思って打粉で模造刀の手入れをするとメッキが剥落し、メッキに守られていた合金製の刀身が露出してしまいます。日本刀の手入れと同様の手順で模造刀の手入れをしたり、研ぐことをしてしまうと、錆びや腐食に繋がってしまうため、注意が必要です。