金工師・鍔工師の仕事 - 名古屋刀剣ワールド
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金工師(きんこうし)・鍔工師(つばこうし)の仕事とは
金工師・鍔工師の仕事と歴史

江戸時代の金工師
金工師(きんこうし)・鍔工師(つばこうし)とは、刀を装飾する「刀装具」を制作する職人のこと。なかでも、鍔工師は主に「鍔」を制作する職人、金工師は主に「目貫」(めぬき)や「笄」(こうがい)、「小柄」(こづか)などの刀装金具を制作する職人とされています。
古くは刀匠が刀装具も共に造っていましたが、飛鳥時代になると刀匠と刀装具を制作する職人が分業化。刀が武器としてのみならず、身分や権威を象徴するようになっていったことから、刀を装飾する技術が発展していったのです。
平安時代から室町時代前期まで、太刀が主流であった時代は、「太刀師」と呼ばれる職人が「太刀拵」と呼ばれる刀装具一式を制作していました。
太刀拵とはその名の通り太刀の拵のことで、華やかな装飾が施されているのが特徴です。室町時代に打刀が出現すると、銀師(しろがねし:非鉄金属を用いて腰刀などの刀装具制作を行う職人)「後藤祐乗」(ごとうゆうじょう)によって打刀用の拵「打刀拵」が制作されるようになり、金工師と呼ばれる職業が誕生しました。
後藤家の生業が本来鉄を用いない銀師であったことから、当時鉄製が主流であった鍔を作らなかったため、新しく鍔を制作する職人「鍔工師」が誕生したのです。鍔は頑丈さが必要とされることから、刀と同様に鉄を素材として制作されますが、目貫など、拵に附属する装飾は頑丈でなくても良いため、金や銀、銅などを素材としています。鉄と非鉄金属では扱いが異なるため、金工師と鍔工師は分業されるようになりました。
鍔のみを制作する場合は鍔工師、もしくは鍔師と呼びますが、現在、金工師と鍔工師は明確に区別されておらず、双方の職人を合わせて金工師、もしくは装剣金工家と呼ぶ場合もあります。
金工師が制作した刀装具
目貫

目貫
目貫とは、柄に付けられた小さな金具のこと。元々は柄と刀身を固定する部品「目釘」(めくぎ)が脱落しないように付けられた金具でしたが、のちに目釘と目貫が独立し、目貫は装飾性が重視されるようになりました。
柄糸の下に巻き込むことで柄糸を崩れにくくし、滑り止めの役割も果たしています。
- 目貫の制作法
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目貫の制作には、出し減し(だしへし)法と摺り欠き法の2つの彫金法があります。出し減し法は、だし鏨(たがね)を用いて素材となる地板を裏から打ち出し、表へ隆起させていく手法です。
このとき、打ち出しすぎた部位は減し鏨を用いて表から叩き、へこませます。この手法を「減し(圧し)」と呼び、逆に、裏から打ち出すことを「出し」と呼ぶのです。このあと、鏨や鑢を用いて細かな図柄を現わしていきます。
一方の摺り欠き法は、表を容彫り(かたぼり/かたちぼり:丸彫りと同様に、実物のように立体的な彫刻)にし、裏は丸鏨を用いて鋤取り(すきとり:余分な起伏を削り平らにすること)をし、薄く削る彫金法です。
小柄

小柄
小さな細工用の小刀で、鞘の裏面に収められます。ペーパーナイフや緊急時の武器として扱われることもありますが、目貫よりも装飾的な意味合いの強い刀装具です。
一般的に、南北朝時代から室町時代にかけて制作されはじめたと伝わり、初期は将軍や有力大名御用達の刀装具だったとされています。
太刀よりも打刀が主流になると、小柄は太刀の刀装には用いられず、打刀や脇差の拵にのみ付けられるようになりました。
笄
拵の差表に付けられる部品で、身だしなみを整えるための物。笄は古くから髪のほつれを直したり、簪(かんざし)にしたりするためなどに存在する装飾品でしたが、室町時代中期以降、刀の拵に付けられるようになりました。
目貫や小柄よりもさらに装飾的な意味合いが強く、打刀拵にのみ付けられます。
縁頭
装剣金工の技法
装剣金工の素材は、素銅(すあか)や、金と銅の合金である赤銅(しゃくどう)、銀と銅の合金である「朧銀」(おぼろぎん)、銅と亜鉛の合金である「真鍮」(しんちゅう:黄銅とも)などの銅が主流。これらの銅を加工して多様な色彩、形の刀装具が作り分けられるのです。装剣金工の技法としては、主に鋳金(ちゅうきん)と鍛金(たんきん)、彫金(ちょうきん)の3種類の技法があります。
鋳金(ちゅうきん)
鋳金は、溶かした金属を鋳型に流し込んで成形する技法で、主に古代の装剣によく見られました。
鍛金(たんきん)
鍛金は、素材となる地板を金槌で叩いて加工する技法で、槌起(ついき)と呼ばれることもあります。目貫を制作する際によく用いられる技法で、出来上がった物は薄い上に軽くて丈夫なのが特徴です。
鍛金には、異なる金属を合わせて加工した「接ぎ合せ」(はぎあわせ)や、異なる金属を重ねて溶接することで木目のような模様を出す「木目金」という技法があります。
彫金(ちょうきん)

彫金(装剣金工の技法)
素材となる金属に直接鏨で図柄を彫りこむ加工法が彫金です。
彫りを入れた部分に別の金属を埋め込み、色彩を施す「象嵌」(ぞうがん)という手法も一緒に使われることがあります。
彫りには、「透彫り」(すかしぼり)や「浮彫り」(うきぼり)、「地肉彫り」(じにくぼり)など様々な種類の技法があり、刀装具に立体的な華やかさをもたらしているのです。
装剣金工の技法には他にも、メッキ処理を施す「鍍金」(ときん)や、薬品を塗って色を付ける「色付け」(伝色とも)などがあります。
鍔制作の工程
鍔は、基本的に刀と同様の鍛鉄を素材として制作されます。絵付けや彫りなどの作業の他、象嵌や鍍金、色付けなどを行い、一種の美術品として鑑賞される美しい鍔を制作するのです。
下絵
鍔工師はまず、制作する鍔がどんな種類のどのような用途を持った刀に付けられる物なのかを考え、下絵の構想を練ります。例えば、打刀拵の鍔と太刀拵の鍔、また、飾り刀用の鍔と居合刀に付ける実戦用の鍔ではデザインが違うのです。
次に刀身の大きさを採寸し、合うように下絵に書き込み、完成した下絵を素材となる地金に写して清書します。下絵を写す際の方法は、紙に書いた下地を地金に貼り付け上から加工していく方法と、ケガキ棒と呼ばれる、先端が針のように細い道具で削るように下絵を写していく「ケガキ」という方法の2種類。このケガキは、古くから鍔工師や金工師が行っていた伝統的な方法です。
切り出しと透かし穴開け
下絵のあとは、糸鋸(いとのこ)と電動ドリルを用いて外形を切り出していきます。外形を糸鋸で切り出したあと、鍔の中心に茎穴(なかごあな:鍔の中心にある刀を通す穴)や、小柄・笄のために開けられる「櫃」(ひつ:打刀鍔の茎穴の両脇にある穴)、透彫りのための穴を電動ドリルや糸鋸で開けていくのです。この作業を「透かし穴開け」と言います。
彫金

象嵌(鍔制作)
鏨と金槌を用いて鍔に図柄を彫刻していきます。使う鏨や鏨を当てる角度によって様々な線や模様を出すことができ、多様な技法が存在するのです。
象嵌や鍍金を施し色彩を表現します。
研磨と焼き入れ
鍔制作の道具
電動ドリル
地金に穴を開けたり、外形を削ったりするときに使います。透彫りを施す際にも、先にドリルなどで穴を開けておくと鋸で削る際の作業などが楽になるのです。電動ドリルのなかった時代では、鏨と金槌を使い、根気よく穴を開ける作業を行っていました。
糸鋸
デザインに沿った大まかな形を作る際に用います。
鑢
目の粗い鋼鉄用の物から、目の細かい物まで様々な種類の鑢を常備。丸みを出したり、艶を出したりする際に使用します。
鏨と金槌
彫金する際に使用。図柄に合わせて様々な大きさ、形状の鏨を使い分けるため、多数の鏨が常備されています。