刀剣の豆知識

刀剣ができるまで

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日本刀は、切れ味鋭い武器であるのと同時に、匠の技が光る美術品でもあります。
そんな日本刀の素材とは? 強さの理由とは? そして、なぜ心奪われるほど美しいのでしょうか。ここでは、日本刀を作る刀工の仕事を通して、日本刀制作の秘密に迫ります。

刀剣に関する基礎知識をご紹介します。

日本刀の材料

玉鋼を作る

日本刀の素材となるのは、「玉鋼」(たまはがね)です。玉鋼は、「たたら製鉄」の一方法「けら押し法」によって作られます。

「けら押し法」とは、「火床」(ほど:炉)の中に材料の砂鉄と木炭を入れ、「鞴」(ふいご)と呼ばれる風を送る装置を用いて燃焼させ、鉄に含まれる炭素の割合を調整する製鉄法です。

この作業は、3昼夜、約70時間続けなればなりません。常に変化する炎の状態を見極め、砂鉄や木炭を投入し、不純物を取り除くタイミングを計るのは「村下」(むらげ)と呼ばれる総監督の役目です。日本刀1振を作るために必要な素材の玉鋼は、約10kgと言われています。

刀剣に関する基礎知識をご紹介します。

硬い玉鋼とやわらかい玉鋼を選別

ここからの作業が刀工の仕事です。

最初は玉鋼を低温で熱し、軽く叩いてなじませたのち、少しずつ高温で加熱。これを5mmほどの厚さまで叩いて引き延ばしたら、水に入れて急速に冷やします。この作業が「水へし」です。

急冷した平たい玉鋼を、小槌で2cmくらいになるよう叩き割り、断面がきれいな硬い玉鋼と、そうでないやわらかい玉鋼に分けます。硬さの違いは炭素量の差によって生まれ、選別作業は刀工の腕の見せどころです。

刀身は重層構造になっており、刀身の外側を覆い刃の部分を形作る硬い玉鋼を「皮鉄」(かわがね)、刀身の芯となるやわらかい玉鋼を「心鉄」(しんがね)と呼びます。

玉鋼誕生物語~たたら製鉄~

玉鋼誕生物語~たたら製鉄~

玉鋼を鍛錬する

鍛錬の準備

積み重ねた玉鋼

積み重ねた玉鋼

最初に「鍛錬」(たんれん)のための準備へ。

まず小割りした玉鋼を「梃子皿」(てこざら)の上へ積み重ね、隙間は小さなカケラで埋めます。この塊が崩れないよう濡れた和紙で包んで固定。

それに藁灰(わらばい)をまぶしたら、ケイ素を多く含んだ泥で表面を覆います。これらの処置によって空気を遮断し、玉鋼自体が燃えることを防止。熱を内部まで均等に加える効果が生まれるのです。

折り返し鍛錬

準備が整ったら、玉鋼を叩いて、延ばして、折り曲げる「折り返し鍛錬」となります。これは、玉鋼の不純物を取り除き、炭素量を均一化して強度を高めるための作業です。

先ほど準備した玉鋼を火床の中へ入れて、適切な温度に加熱する「沸かし」を行ないます。そののち、熱した玉鋼を大槌で叩いて長方形に延ばし、鏨(たがね)で切り込みを付け、半分に折ってまた叩くことを繰り返すのです。

温度が下がれば、また火床へ入れて沸かします。

皮鉄と心鉄は別々に鍛えられ、折り曲げる回数は、皮鉄は約15回、心鉄は7~10回ほど。折り曲げる方法は、同一方向へ折り続ける「一文字鍛え」と、縦横交互に折る「十文字鍛え」があり、地肌の現れ方が変わってきます。

玉鋼は鍛錬するほど硬くなりますが、多ければ多いほど良いというわけではありません。どのくらい鍛錬を行なうのが最適なのか、刀工の判断が成否を分けるのです。

刀身の形を作る

造り込み

「造り込み」とは、別々に鍛えた硬い皮鉄とやわらかい心鉄を組み合わせること。

造り込みの方法はいくつかありますが、そのひとつ「甲伏せ」(こうぶせ)では、皮鉄をU字形に曲げ、延ばした心鉄をその間へ挟み込んで接着。そのあと、皮鉄と心鉄が一体化するまで、沸かしと鍛錬を繰り返します。

硬く曲がりにくい皮鉄と、柔軟性があり折れにくい心鉄を一体化させることで、日本刀は「折れず、曲がらず、よく切れる」という世界でも類を見ない優れた特性を実現しました。

日本刀の強さは、こうした創意工夫の賜物と言えます。

素延べ

一体化させた皮鉄と心鉄を棒状に打ち延ばす作業が「素延べ」(すのべ)です。このとき、一部分だけを延ばしたり、内側の心鉄が外へはみ出したりしないよう留意しなければなりません。

日本刀の長さまで打ち延ばしたら、先端に鋒/切先(きっさき)を成形。鋒/切先は、先端を斜めに切り、小槌で叩いて作ります。

続いて、持ち手部分である「茎」(なかご)と刀身との境目となる「」(まち)を付ければ素延べの完成です。

火造り

火造り

火造り

続いて行なうのは、素延べした玉鋼を日本刀の形に打ち出す「火造り」。刀身の峰/棟(みね/むね)側を通る筋「」(しのぎ)を打ち出し、さらに小槌で日本刀の姿へと叩き慣らします。

その後、荒仕上げとして、粗い砥石や、ヤスリ、セン(鉄を削ることができる道具)を使って表面を削り、整えたらこの工程は終了です。

焼き入れ作業

土置き

「焼き入れ」は、日本刀の個性を決める重要な作業のひとつ。この焼き入れによって、刃文や反りが生まれるのです。

まず、刀身に砥石の粉や炭の粉に水を加えて混ぜ合わせた「焼刃土」(やきばつち)を塗っていきます。これを「土置き」(または[土取り])と言い、硬くしたい刃の部分には薄く、その他の部分にはやや厚く塗るのが基本。

焼刃土の厚みが違う境目が刃文となるため、塗り方によって刀工個人や流派の個性がはっきりと表れるのです。

焼き入れ

焼き入れ

焼き入れ

塗った焼刃土をしっかり乾燥させたら、刀身を強くするために全体を加熱。

その際、均一に熱することができるように、刀身の色合いを良く見定めなければなりません。そして温度が約800℃に達したとき、水に入れて一気に冷却します。

こうして刃文を焼くのが「焼き入れ」です。また、急激に冷やすことによって、玉鋼は伸縮を起こし、刀身は峰/棟側に強く反り返ります。刃文だけでなく、反りという日本刀ならではの造形美が誕生する瞬間で、経験豊かな刀工でも緊張を強いられると言うことです。

折り返し鍛錬・焼き入れ

折り返し鍛錬・焼き入れ鉄~

研ぎを行なう

鍛冶押し・茎仕立て

焼き入れのあとは、いよいよ仕上げにかかります。

焼き入れによって反りができますが、まだ完璧ではありません。そこで、刀身の峰/棟を焼いて修正と微調整を行ないます。

次に、荒砥(あらと)で研ぎながら、焼き入れされた刃文が思い通りに表現できているかどうかを確認。これが「鍛冶押し」(かじおし)です。そして、茎にヤスリをかけて、綺麗に仕上げる「茎仕立て」を行ないます。

茎の形状やヤスリのかけ方も刃文と同様に種類が多く、個性が発揮される部分です。

刀工の仕事はここまでで一旦終わり、日本刀は次の工程を担う「研師」(とぎし)に手渡されます。

銘切り

刀工が担う最後の作業。それが「銘切り」です。

鞘などが完成したあと、刀工が自らの作品としてふさわしい出来栄えであると納得できれば、表銘として氏名、裏銘に制作年月日を鏨で刻みます。

博物館・美術館では、表銘が見えるように展示されるので、注目してみましょう。

こうした一連の制作方法は、「現代刀」まで変わらず受け継がれています。

「刀剣ワールド財団」が所蔵している昭和時代制作の太刀「武蔵国住吉原義人作」(むさしのくにじゅうよしわらよしんどさく)は、東京都指定無形文化財保持者にも選ばれた「吉原義人」刀匠の傑作刀で、1976年(昭和51年)の「新作名刀展」にて「高松宮賞」に輝きました。

祖父の初代「吉原国家」(よしわらくにいえ)から受け継いだ、華やかな重花丁子乱れ(じゅうかちょうじみだれ)の刃文は、「吉原丁子」と呼ばれ、吉原義人刀匠の個性が際立っています。どのような想いを込めて焼き入れされたのか、想像を巡らせてみてはいかがでしょうか。

太刀 銘 武蔵国住吉原義人作(高松宮賞受賞作)
太刀 銘 武蔵国住吉原義人作(高松宮賞受賞作)
武蔵国住吉
原義人作
時代
昭和時代
鑑定区分
未鑑定
所蔵・伝来
刀剣ワールド財団
〔 東建コーポレーション 〕

日本刀制作の展示

日本刀の作り方については、名古屋刀剣博物館「名古屋刀剣ワールド」(愛知県名古屋市中区栄)でもご紹介。制作の様子を細部までスクリーンにてご覧頂けます。

勇壮にして精緻、一心不乱に打ち込む刀工の姿には、思わず身を乗り出してしまうことでしょう。

実際に1振の日本刀が誕生するまでを見届けたような臨場感をお楽しみ下さい!