刀剣ができるまで
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日本刀は、切れ味鋭い武器であるのと同時に、匠の技が光る美術品でもあります。
そんな日本刀の素材とは? 強さの理由とは? そして、なぜ心奪われるほど美しいのでしょうか。ここでは、日本刀を作る刀工の仕事を通して、日本刀制作の秘密に迫ります。
刀剣に関する基礎知識をご紹介します。
日本刀の材料
玉鋼を作る
硬い玉鋼とやわらかい玉鋼を選別
玉鋼を鍛錬する
鍛錬の準備

積み重ねた玉鋼
最初に「鍛錬」(たんれん)のための準備へ。
まず小割りした玉鋼を「梃子皿」(てこざら)の上へ積み重ね、隙間は小さなカケラで埋めます。この塊が崩れないよう濡れた和紙で包んで固定。
それに藁灰(わらばい)をまぶしたら、ケイ素を多く含んだ泥で表面を覆います。これらの処置によって空気を遮断し、玉鋼自体が燃えることを防止。熱を内部まで均等に加える効果が生まれるのです。
折り返し鍛錬
準備が整ったら、玉鋼を叩いて、延ばして、折り曲げる「折り返し鍛錬」となります。これは、玉鋼の不純物を取り除き、炭素量を均一化して強度を高めるための作業です。
先ほど準備した玉鋼を火床の中へ入れて、適切な温度に加熱する「沸かし」を行ないます。そののち、熱した玉鋼を大槌で叩いて長方形に延ばし、鏨(たがね)で切り込みを付け、半分に折ってまた叩くことを繰り返すのです。
温度が下がれば、また火床へ入れて沸かします。
皮鉄と心鉄は別々に鍛えられ、折り曲げる回数は、皮鉄は約15回、心鉄は7~10回ほど。折り曲げる方法は、同一方向へ折り続ける「一文字鍛え」と、縦横交互に折る「十文字鍛え」があり、地肌の現れ方が変わってきます。
玉鋼は鍛錬するほど硬くなりますが、多ければ多いほど良いというわけではありません。どのくらい鍛錬を行なうのが最適なのか、刀工の判断が成否を分けるのです。
刀身の形を作る
造り込み
「造り込み」とは、別々に鍛えた硬い皮鉄とやわらかい心鉄を組み合わせること。
造り込みの方法はいくつかありますが、そのひとつ「甲伏せ」(こうぶせ)では、皮鉄をU字形に曲げ、延ばした心鉄をその間へ挟み込んで接着。そのあと、皮鉄と心鉄が一体化するまで、沸かしと鍛錬を繰り返します。
硬く曲がりにくい皮鉄と、柔軟性があり折れにくい心鉄を一体化させることで、日本刀は「折れず、曲がらず、よく切れる」という世界でも類を見ない優れた特性を実現しました。
日本刀の強さは、こうした創意工夫の賜物と言えます。
素延べ
火造り
焼き入れ作業
土置き
焼き入れ
研ぎを行なう
鍛冶押し・茎仕立て
焼き入れのあとは、いよいよ仕上げにかかります。
焼き入れによって反りができますが、まだ完璧ではありません。そこで、刀身の峰/棟を焼いて修正と微調整を行ないます。
次に、荒砥(あらと)で研ぎながら、焼き入れされた刃文が思い通りに表現できているかどうかを確認。これが「鍛冶押し」(かじおし)です。そして、茎にヤスリをかけて、綺麗に仕上げる「茎仕立て」を行ないます。
茎の形状やヤスリのかけ方も刃文と同様に種類が多く、個性が発揮される部分です。
刀工の仕事はここまでで一旦終わり、日本刀は次の工程を担う「研師」(とぎし)に手渡されます。
銘切り
刀工が担う最後の作業。それが「銘切り」です。
鞘などが完成したあと、刀工が自らの作品としてふさわしい出来栄えであると納得できれば、表銘として氏名、裏銘に制作年月日を鏨で刻みます。
博物館・美術館では、表銘が見えるように展示されるので、注目してみましょう。
こうした一連の制作方法は、「現代刀」まで変わらず受け継がれています。
「刀剣ワールド財団」が所蔵している昭和時代制作の太刀「武蔵国住吉原義人作」(むさしのくにじゅうよしわらよしんどさく)は、東京都指定無形文化財保持者にも選ばれた「吉原義人」刀匠の傑作刀で、1976年(昭和51年)の「新作名刀展」にて「高松宮賞」に輝きました。
祖父の初代「吉原国家」(よしわらくにいえ)から受け継いだ、華やかな重花丁子乱れ(じゅうかちょうじみだれ)の刃文は、「吉原丁子」と呼ばれ、吉原義人刀匠の個性が際立っています。どのような想いを込めて焼き入れされたのか、想像を巡らせてみてはいかがでしょうか。