第26回 博物館巡見:大阪浮世絵美術館 - ホームメイト

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こんにちは!名古屋刀剣ワールド・名古屋刀剣博物館学芸員の島﨑です。先日、大阪へ行った折に「大阪浮世絵美術館」(大阪市中央区)を訪ねてきました。今回の学芸員のつぶやきでは、観覧した展覧会の内容と、館内に併設されたミュージアムショップにて購入した作品をご紹介したいと思います。

大阪浮世絵美術館を訪ねて

大阪浮世絵美術館とは

大阪浮世絵美術館 3階入口

大阪浮世絵美術館 3階入口

大阪浮世絵美術館」(大阪市中央区)は、心斎橋商店街の中にある浮世絵専門の美術館。

葛飾北斎」(かつしかほくさい)や「歌川広重」(うたがわひろしげ)をはじめ、大阪・京都ゆかりの浮世絵を展示しています。

大阪メトロ御堂筋線の心斎橋駅から徒歩約5分とアクセスも良く、周囲にはお店もたくさんあるため、来館の前後で買い物を楽しむこともできます。

「浮世絵 匠の技」展

大阪浮世絵美術館「浮世絵 匠の技」展

大阪浮世絵美術館「浮世絵 匠の技」展

美術館を訪ねたのは8月だったのですが、当時開催していたのが「浮世絵 匠の技」展です。

浮世絵版画の技術・技法に注目した展示で、「毛割」(けわり)や「雲母摺」(きらずり)といった数々の技術・技法をじっくり学ぶことができました。

また、館内で配布されている目録には、作品名や制作年といった情報だけでなく、見どころや技法の紹介も書かれていたのが良かったと思います。

ここまで書く目録は結構珍しいのではないでしょうか。目録を見返すことってあまりないのですが、これはもう一度見たくなる目録だと思いました。

画像を観たり、解説を読んだりするだけではなかなか分かりにくいところも、実物を観ることで理解が深まります。また、スタッフの方々に詳細の解説や作品の魅力などを伺うこともでき、とても楽しめました。

※「浮世絵 匠の技」展は、2022年(令和4年)8月21日をもって終了しました。
 現在は「写楽と珠玉の浮世絵」展を開催中(~2023年[令和5年]2月19日まで)です。

浮世絵の「匠の技」

ここで、こちらの企画展にて取り上げられていた浮世絵の技法について、当館所蔵の浮世絵を使っていくつかご紹介したいと思います。

  1. 毛割(けわり)

    毛割

    毛割

    髪の毛を彫って表現する技法。髪の生え際まで一筋一筋彫ります。

    とても細かいため難しく、高度な技です。

  2. 正面摺(しょうめんずり)

    正面摺

    正面摺

    絵の表面をバレンやへらでこすってつやを出し、模様を浮き出させる技法。

    角度や光のあたり方によって模様が浮き出て見えます。

  3. ぼかし

    ぼかし

    ぼかし

    濃い色から薄い色へ、だんだんぼかしていく技法。

    水でぬらした版木に絵の具を刷毛(はけ)で摺ってぼかす「拭きぼかし」、型紙をあてた部分へ霧吹きのような道具で絵具を吹き付ける「吹きぼかし」などがあります。

鑑賞に便利な小道具・ルーペ

ルーペ

ルーペ

さて、大阪浮世絵美術館では、来館者にルーペを貸し出しています。

私もお借りしたのですが、肉眼ではよく観ることのできない細部までじっくりと鑑賞するのにとても便利なアイテムだと思いました。

普段は単眼鏡で鑑賞しているので、ルーペを使ったのは今回が初めて。浮世絵のように作品に比較的近づくことができる場合は、単眼鏡に比べてルーペはピントが合わせやすいので見やすいなと思いました。

大阪浮世絵美術館ミュージアムショップ

大阪浮世絵美術館のミュージアムショップでは、浮世絵に関する書籍やグッズの他、江戸時代に制作された浮世絵版画や、現代に復刻した浮世絵を販売しています。素敵な品がたくさんあったのですが、今回は復刻版の作品を1点購入しました。

木版画復刻版小判 歌川国政「猫美人」

歌川国政「猫美人」

歌川国政「猫美人」

本作は、「歌川国政」(うたがわくにまさ)が描いた作品の現代復刻版です。

こたつに入った女性と猫の姿が描かれています。猫のことがとてもかわいいのだろうな、と想像させる表情が印象的ですよね。全体的にやわらかい色合いで、温かみを感じさせます。

作者の歌川国政は、江戸時代後期の浮世絵師。「歌川豊国」(うたがわとよくに)の門下となりますが、歌川豊国最初の門人と言われています。名は「甚助」(じんすけ)、「一寿斎」(いちじゅさい)という号があります。

役者大首絵(やくしゃおおくびえ)に優れ、多くの傑作を残しました。美人画も手掛けています。

空摺(からずり)の技法で描かれた猫

空摺

空摺

こたつの上に乗っている白い猫をよく見て下さい。触るとよく分かるのですが、ちょっとでこぼこしています。

これは、「空摺」(からずり)と言って、版木に絵の具を付けずに強く摺って、凹凸を出す浮世絵の技法のひとつ。着物の文様や雪の降り積もった様子などを表現した例があります。

立体感がでて、猫のやわらかな毛並みがよく表現されていますね。首にまかれた赤い紐も良いアクセントになっています。

まとめ

浮世絵版画は、肉筆画と違って基本的に1点物ではありませんので、同じ作品をいくつかの館で所蔵・展示している場合が結構あります。もちろん状態などは作品によって異なりますが、何度も摺りが重ねられた作品であれば、現存数も多いです。

同じ作品であっても、展示の方法やキャプション(説明文)の内容は館によって違います。ここに学芸員の方々のこだわりが見えてとても面白いです。どこも施設の設備によっていろいろな制約があろうと思いますが、より良い展示にしようと様々な工夫がなされているのが見て取れます。そんな展示を観ると、私も良い展示がつくれるように頑張ろうと思うのです。

学芸員・博物館職員のつぶやき

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