源氏物語 関連情報

源氏物語に関する所蔵品 - ホームメイト

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「源氏物語」は、平安時代中期に成立した世界最古の長編小説になります。その作者は後宮の后に仕えた女性「紫式部」(むらさきしきぶ)です。同物語の主人公「光源氏」の一生を通して恋愛や政治闘争、権力争いといった平安時代の貴族社会を描いています。全54帖という長い物語の各帖には、作中に登場する人物や名所になぞらえて風流で情緒ある名称が付けられているのです。また源氏物語は、世界約20ヵ国語で翻訳されるなど世界各国で愛されてきた物語でもあります。もちろん日本でも教養人に好まれ、写本をはじめ絵画や調度品、刀装具の意匠に用いられてきました。刀剣ワールドが所蔵する源氏物語に関する作品をご紹介します。

絵入源氏物語 全60冊(えいりげんじものがたり)

絵入源氏物語 全60冊
絵入源氏物語 全60冊

絵入源氏物語」は、江戸時代前期に出版された「源氏物語」 の版本(はんぽん:木版で印刷した本)です。本編54冊に付録6冊を加えた全60冊になります。

挿絵入りの源氏物語出版は初めてのことであり、編集したのは歌人で蒔絵師の「山本春正」(やまもとしゅんしょう)です。

従来の源氏物語は、長編でやや難解な表現が多かったのですが、挿絵入りにしたことで庶民も物語を全編通して楽しむことができるようになりました。

源氏物語 あけまき 一帖(げんじものがたり あけまき いちじょう)

源氏物語 あけまき 一帖
源氏物語 あけまき 一帖

本史料は江戸時代の写本の1冊となり、内容は源氏物語第47帖「あけまき」になります。漢字では「総角」と書き、読みは濁音が入り「あげまき」です。

「薫」(かおる:源氏の次男)が源氏の異母弟「八宮」(はちのみや)の娘「大君」(おおいぎみ)に心惹かれ求婚を決意するところから47帖は始まります。

このあけまきとは、薫が大君に詠んだ思慕の歌「あげまきに 長き契りを むすびこめ おなじ所に よりもあはなむ」に由来するのです。

光源氏物語小鏡(ひかるげんじものがたりこかがみ)

光源氏物語小鏡
光源氏物語小鏡

本史料「光源氏物語小鏡」は、源氏物語全54帖を要約した書物になります。

長編大作である源氏物語は写本の制作自体が容易ではありませんでしたが、このようなダイジェスト版は、気軽に読める書籍として好まれました。

表紙は紺色の紙に金泥(きんでい:金粉をにかわで溶いた顔料)で草花が描かれています。そして装丁は、綴葉装(てっちょうそう)、あるいは列帖装(れっちょうそう)とも言い、紙を数枚重ねて2つに折り、それらを表紙と共に糸で綴じて作られました。

袖珍本 源氏物語 全二十八冊(しゅうちんぼん げんじものがたり)

本史料は、天地6.9cm、幅4.8cm、厚さ約0.30cmの極小本28冊が同梱されています。本も小さければ、さらに箱の寸法まで高さ13.6cm、幅6cm、奥行8.4cmの掌サイズ。移動先に携行するための本として、江戸時代に制作されました。

このように着物の袖に入るほど小さな本を「袖珍本」(しゅうちんぼん)もしくは「馬上本」、「豆本」などと呼びます。

袖珍本 源氏物語 全二十八冊
袖珍本 源氏物語 全二十八冊

袖珍本 源氏物語 全二十八冊

冷泉為恭 源氏物語画帖(れいぜいためちか げんじものがたりがじょう)

冷泉為恭 源氏物語画帖
冷泉為恭 源氏物語画帖

本作は、江戸時代後期の復古大和絵師「冷泉為恭」(れいぜいためちか)による源氏物語全54帖が揃った画帖です。

画帖にある源氏物語第13帖「明石」(あかし)で光源氏は、政治闘争によって都を追われ須磨(現在の兵庫県神戸市須磨区)の地に隠れ住むこととなります。光源氏は、須磨で出会った女性「明石君」(あかしのきみ)と共に過ごすようになるのです。

そののち、都に復帰したあとも光源氏は「嘆きつつ あかしのうらの 朝ぎりの たつやとひとをおもひやるかな」(あなたは嘆きながら一夜を明かしたのでしょうか。明石の浦の朝霧は嘆きの吐息ではないかと心配しています)という、明石君を気遣う手紙を送るなどしました。

源氏絵屛風 本間 六曲 一双
(げんじえびょうぶ ほんけん ろっきょく いっそう)

屏風(びょうぶ)では、源氏物語全54帖からそれぞれ1場面ずつ絵が描かれています。源氏物語の絵画化は、室町時代後期から江戸時代にかけて狩野派(かのうは)、土佐派(とさは)、宗達派(そうたつは)など、様々な絵師によってさかんに行われました。

また「六曲一双」(ろっきょくいっそう)とは屏風の数え方になり、6つ折りの屏風が左右で1組になることを言います。

源氏物語を読んだことがある方なら、どの絵がどの場面と対応しているのかを観て考えてみるという楽しみ方もできるでしょう。

源氏絵屛風 本間 六曲 一双

源氏絵屛風 本間 六曲 一双

源氏物語屛風 本間 六曲 一双
(げんじものがたりびょうぶ ほんけん ろっきょく いっそう)

青海波を舞う場面

青海波を舞う場面

本屏風も、源氏物語全54帖をそれぞれ1場面ずつ描いた作品です。

左隻(させき)上部には源氏物語第7帖「紅葉賀」(もみじのが)において、光源氏が親友「頭中将」(とうのちゅうじょう)と2人で「青海波」(せいがいは:雅楽の演目)を舞う様子が描かれています。

紅葉賀は、光源氏の父「桐壺帝」(きりつぼてい)の后「藤壺宮」(ふじつぼのみや)が懐妊した祝いの宴。その席で光源氏と頭中将は青海波を舞うのですが、実は藤壺宮が宿したのは光源氏との子でした。光源氏の舞う姿を「この世の物とは思えない美しさだ」と周囲が褒めそやすなか、藤壺宮だけは複雑な心境を抱えていたのです。

さらに左隻下部には第16帖「関谷」(せきや)の場面も描かれています。関谷は、光源氏と一度だけ夜を共にした女性「空蝉」(うつせみ)が、逢坂の関(現在の京都と滋賀県の間にあった峠道)で再会し文を交わす場面となっているのです。

源氏物語屛風 本間 六曲 一双

源氏物語屛風 本間 六曲 一双

源氏絵屛風 中形 六曲 一双
(げんじえびょうぶ ちゅうがた ろっきょく いっそう)

童女が雪遊びをする場面

童女が雪遊びをする場面

本屏風も源氏物語の場面を描いた作品です。右隻(うせき)上部に第7帖紅葉賀で青海波を舞う様子が描かれています。

左隻下部に描かれているのは第20帖「朝顔」後半の場面。童女(わらわめ)が庭で雪遊びをしている様子です。

それを光源氏と妻「紫の上」(むらさきのうえ)が2人並んで眺める場面となっています。

源氏絵屛風 中形 六曲 一双

源氏絵屛風 中形 六曲 一双

源氏物語蒔絵棗(げんじものがたりまきえなつめ)

「棗」(なつめ)とは、茶道で抹茶を入れるのに用いる茶道具です。植物のナツメに似ていることから、その名が付けられました。木製の漆塗りに、蓋付き容器となっているのが一般的です。

本作では源氏物語第4帖「夕顔」の一場面が描かれており、話は病に罹った乳母(めのと)の見舞いに光源氏が訪れることで始まります。光源氏が乳母宅の隣家に咲く花の名を付き人に尋ねると「夕顔です」と答えました。夕顔の花に興味を持った光源氏は1房持ってくるよう付き人に命じます。付き人がその家に向かうと扇を持った童女が現れ、この上に花を載せて持って行って欲しいと付き人に伝えました。

光源氏の手に渡った扇には「心あてにそれかとぞ見る白露の 光そへたる夕顔の花」(当て推量ですが、あなたは光源氏ではありませんか)と書かれており、このことをきっかけに光源氏は歌を詠んだ女性と親交を深めていくことになるのです。

源氏物語蒔絵棗
源氏物語蒔絵棗

源氏物語蒔絵棗

落合芳幾作「今様擬源氏 四 夕顔 武智光秀」
(おちあいよしいく さく[いまようなぞらえげんじ よん ゆうがお たけちみつひで])

落合芳幾作「今様擬源氏 四 夕顔 武智光秀」
落合芳幾作
「今様擬源氏 四 夕顔 武智光秀」

「今様擬源氏」とは、源氏物語の作中で詠まれた和歌を戦国武将に重ね合わせて作られた54の連作です。

本作は源氏物語第4帖の夕顔で詠まれた歌「寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 花の夕顔」を、「明智光秀」になぞらえています。

意味は「近寄って確かめてみてはどうでしょうか。夕方に咲いていたのが夕顔だったかどうかを」となり、光源氏が夕顔に対して「正体を知りたければ近寄らないと分かりませんよ」と告げる場面に用いられているのです。

明智光秀が、なぜ「本能寺の変」を起こしたのかはいまだ謎のままであり、そういった不可思議さが和歌の「近寄って確かめてみてはどうでしょうか」といった部分に込められているのだと考えられています。

源氏物語図鍔 銘 間(げんじものがたりずつば めい はざま)

源氏物語図鍔 銘 間
源氏物語図鍔 銘 間

(つば)に描かれているのは御簾(みす:竹ひごを編み、絹などで縁を取ったすだれ)になります。宮中では室内の仕切り、日差しを遮るため廂(ひさし)に下げられました。

実は御簾は、日差しを遮る以外にも大事な意味を持っていたのです。そのひとつが第1帖「桐壺」(きりつぼ)内での話。桐壺帝は光源氏の亡くなった母に瓜二つの藤壺宮を新たな后に迎えます。光源氏は藤壺宮を姉のように慕いましたが、光源氏が元服(げんぷく:男性の成人の儀)したのちは御簾越しにしか会うことができなくなりました。成人男性が妻子・姉妹以外の女性を直接見るのは失礼に当たるためです。けれどこうして光源氏は藤壺宮への思いをよりいっそう募らせていくこととなります。

他にも第34帖「若菜」上巻末に御簾にまつわる場面が登場。「柏木」(かしわぎ:光源氏の親友・頭中将の長男)が、光源氏に嫁ぐ予定の「女三宮」(おんなさんのみや)の姿を御簾越しに垣間見てしまい、そこから女三宮に思いを寄せるようになるのです。

このように平安時代の人々は、御簾越しにわずかに見える着物の裾や、物音、声によって相手を想像する情緒的な面を持ちました。

源氏物語図 武州伊藤派(げんじものがたりず ぶしゅういとうは)

源氏物語図鍔 無銘 武州伊藤派
源氏物語図鍔 無銘 武州伊藤派

本鍔は、雅な「御所車」(ごしょぐるま:牛車のこと)と松の木が肉彫地透(にくぼりじすかし)、鋤出彫(すきだしぼり)の技法を用いて表現されています。

御所車は源氏物語にも登場する貴族の乗物で、本物語の世界を象徴する文様として着物や調度品などに用いられてきました。他にも車輪のみを文様化した「源氏車」(げんじぐるま)もあります。

また本鍔は、「武州伊藤派」(ぶしゅういとうは)の作と極められた作品。伊藤家は江戸時代初期から江戸で活躍した金工師(きんこうし)の家と考えられています。

源氏香透鍔(げんじこうすかしつば)

源氏香透鍔
源氏香透鍔

本鍔に彫られた直線的な透かしは、「源氏香」(げんじこう)で使われる文様です。源氏香とは香道における組香(くみこう)のひとつで、香りの組み合わせを当てる遊戯になります。

まずは香木(こうぼく:香りを持つ木材)を5種類用意し、各香木を5つずつ計25本作成。さらにその25本を混ぜ合わせ無作為に5つ選び順番に焚いて回答者に回します。回答者は5本の縦線を紙に書き、同じ香りだと思う番号を横線でつないで答えを当てる遊びです。

答えの組み合わせが、源氏物語全54帖のうち第1帖の桐壺と、最終帖の「夢浮橋」(ゆめのうきはし)を除いた、全52種類あることから源氏香と呼ばれています。本鍔に彫られている源氏香は、第11帖の「花散里」(はなちるさと)に対応する記号です。