第19回 博物館と温度・湿度 - ホームメイト

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こんにちは!名古屋刀剣ワールド・名古屋刀剣博物館学芸員の島﨑です。学芸員の仕事は多種多様ですが、そのなかのひとつに「温湿度管理」があります。これを怠るとカビが発生したり、史料の劣化が早まったりしてしまいますのでとても大切な仕事です。当館では日々どのような取り組みをしているのかについて、ご紹介したいと思います。

博物館と温湿度

適切な温湿度

私達が快適な生活を送るうえで、温度や湿度って重要ですよね。暑すぎたり寒すぎたりすると体調を崩してしまいますから、冷房や暖房を入れて部屋の温度を調整します。湿度も同じで高すぎると不快に感じますし、低すぎると乾燥が気になりますので、除湿や加湿をして快適な湿度になるよう工夫をします。

人と同様、文化財にもちょうど良い温湿度というものがありまして、博物館ではその適切な温湿度を保てるように環境整備をしているのです。

温湿度の設定

史料に発生するカビ

史料に発生するカビ

当館では、年間通じて温度22℃(季節によって若干の変動あり)、湿度55%になるように設定しています。文化庁が望ましいとしている数値の他、他館等の事例を参考に決定しました。

文化財の材質によって適切な温湿度は異なりますが、基本的に低すぎても高すぎてもダメなのです。特に湿度は注意が必要で、高くなるとカビが発生してしまいます。反対に、低くなると木や漆が使われている物にひび割れが起こることも。

日本の場合、季節によって温湿度が大きく変化します。そのため、1年中空調を付けて、温湿度を一定に保つようにしているのです。

空調任せじゃダメな理由

当館は、環境を保てるように博物館の建物自体も念入りに設計・施工されています。おかげで良い環境を作ることができていますが、実は、建物と機械に任せてあとは完璧に温湿度を保つことができるかと言うと、それは不可能です。

これは程度に差こそあれ、どこの館も同じでしょう。特に、もともと博物館として設計されたわけではない建物を博物館としている施設などでは、温湿度管理に苦労しているという話をよく聞きます。

どうしても外気の影響は受けますし、環境は日々変化しますので、毎日温湿度を測定して不具合があれば調整する作業が必要不可欠。当館のように新しい建物の場合、建設後、実際に空調を動かし、色々な季節を経験しなければ分からないことがたくさんあるのです。

また、開館後はお客様が来館するたびに扉が開閉しますので、その分館内に入ってくる外気が増え、開館前とは違った環境の変化が起こることが想定されます。そのため、開館までに温湿度をコントロールするためのノウハウを確立し、開館後の変化にスムーズに対応できるよう準備を進めているのです。

日々の温湿度管理

温湿度計の設置

おんどとり

おんどとり

温湿度の管理をするため、温湿度計を展示ケース内に設置しています。

温湿度計にもいろいろと種類があるのですが、当館で使用しているのは「おんどとり」(株式会社ティアンドデイ製)です。

30分ごとに記録を取るように設定してあり、そのデータはパソコンやスマートフォンのアプリなどで見ることができます。

データチェックと館内の見回り

こうして収集したデータは、毎日定期的にチェックし異常がないか確認。また、データを見るだけでなく、館内の見回りも必ず実施しています。実際に館内を見ることで温湿度以外の問題がないかも含めてチェックできるのです。

また、おんどとりの電池がなくなってしまうとデータが取れなくなってしまいますから、電池が切れる前に交換するよう気を付けています。データの確認画面で電池の残容量も分かるようになっていて、残量が少なくなるとアラートが表示されるので一目瞭然です。

もしも異常が発生したら

温湿度が高すぎないか、低すぎないか、急激に変化しているところはないかを確かめて、異常値がでていたらすぐに対応しなければなりません。

例えば、夏季や冬季によくあるのが湿度の問題。温度は空調で比較的制御しやすいのですが、湿度はなかなか難しく、基準に達しないことがよくあります。そこで、湿度が低い場合は温度を若干上げてみる、高い場合は下げてみる、といった工夫をするのです。それでもダメなら除湿剤や加湿器の使用を検討します。

調湿材「ARTSORB®」の使用

アートソーブ

調湿材「アートソーブ®」(写真中央)

展示ケース内の湿度を調整するときには、「ARTSORB®」(アートソーブ®:富士シリシア化学製)という調湿材を使うことも。

これは、製品ごとに特定の湿度に設定されていて、その湿度よりも高くなると放湿し、低くなると吸湿して設定湿度を保てるようになっています。

よく展示ケースの隅などに置かれていますので、見たことがある方も多いのではないでしょうか。

アートソーブ®は、7種類の設定湿度(DRY 40%・45%・50%・55%・60%・65%・70%)があり、必要に応じて選択できます。

使い方はいたってシンプル。はじめに展示ケース内が設定湿度になるよう調整(除湿・加湿)し、そのあとに展示品を入れてアートソーブ®を設置します。

設置場所は、展示ケース内、もしくは調湿ボックスがある展示ケースであればボックスの中ということになりますね。展示ケースの大きさによって必要数が変わってきますので、事前にきちんと計算することが必要です。

まとめ

毎日館内を確認して回るというのは手間のかかることですが、博物館の根幹にかかわるとても大事な仕事。これをやっておけば温湿度管理はばっちり、ということはないので、日々より良い環境になるよう模索しています。

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