第31回 博物館の環境整備:害虫対策 - ホームメイト

文字サイズ

こんにちは!名古屋刀剣ワールド・名古屋刀剣博物館学芸員の島﨑です。博物館では、より良い環境を維持するために日々様々な取り組みを実施しています。そのうちのひとつが、害虫対策。博物館にとって害をなす虫は「文化財害虫」と言い、様々な被害をもたらすのです。今回は、そんな文化財害虫の対策についてご紹介したいと思います。

文化財害虫とは

「文化財害虫」の前に、昆虫のことについて少しお話ししましょう。そもそも昆虫類は、全世界で100万種以上いるのではと考えられているのだそうです。そのうち、人に被害をもたらすものを「害虫」、役に立つものを「益虫」(えきちゅう)と呼んでいます。

ちなみに、害虫はともかく益虫とは何かピンとこないかもしれません。身近なところでは、蜂蜜を作るミツバチや絹(きぬ)糸を作る蚕(かいこ)がそうです。刺されたり、見た目がちょっと嫌だなと思ったりすることを思えば害虫とも言えるかもしれませんが、私達の生活にたくさんの恩恵をもたらしてくれますね。

さて、害虫に話を戻します。害虫は農作物を食べてしまう「農業害虫」、建物の資材や家屋内の衣類、食品に害を加える「家屋害虫」、人に不快感を与える「不快害虫」などに分けられるのです。このうち文化財害虫は家屋害虫に含まれます。

文化財害虫とは文字通り文化財を加害する害虫です。木や紙、布製品を食べたり、糞で汚染したりといった被害があります。

いろいろな文化財害虫と被害

それでは、文化財害虫にはどんな種類がいるのでしょうか。主なものをご紹介していきたいと思います。

シロアリ
シロアリに食い荒らされた柱

シロアリに食い荒らされた柱

博物館に限らず、家屋に被害を与える害虫としてよく知られたシロアリ。

シロアリは「アリ」と名前が付いていますが、実はゴキブリの仲間です。

木材を食害し、歴史的建造物をはじめ木造建築での被害が報告されています。

ゴキブリ

家屋に発生する害虫としてもよく知られるゴキブリですが、世界で約4,000種、日本でも50種以上が知られています。

ゴキブリによる被害で最も多いのが、書籍の装幀(そうてい)をかじられることです。

紙魚(シミ)

これはあまり聞いたことがないかもしれませんね。原始的な昆虫で、織物や紙を食害します。また、糞によって資料を汚染することもあるのです。

博物館での害虫対策

上記のような文化財害虫から資料を守るため、博物館では日々様々な取り組みを実施しています。

目視確認

目視での確認は単純ですが、重要な対策です。毎日の館内巡回で、温湿度のチェックと同時に害虫が発生していないかも確認します。もしも害虫を発見した場合、まずは写真を撮り、発見場所と害虫の種類、被害状況などを記録。場合によっては捕獲し、点検業者に確認を依頼することもありますよ。

当館では害虫の記録シートを作成していて、発見者はすみやかに記録するシステムになっています。この記録シートは、博物館にかかわるスタッフ間で共有し、すぐに確認できるようになっているのです。

トラップ

害虫トラップ

害虫トラップ

日々の目視での確認の他、トラップ設置も行っています。

館内各所にトラップを設置し、毎月1回の外部業者点検時にチェック・交換を実施。

このとき、捕獲した害虫を見てもらい、なんの虫か判断、必要に応じて対策を検討してもらうこともあります。

侵入経路の封鎖

害虫は基本的に外から侵入してきますので、侵入経路を封鎖することも大切な対策です。当館では、裏口の扉と床の間にあった隙間を埋めて侵入を防ぐ対策を取っています。

殺虫処理

害虫が発生した場合、被害の把握や侵入経路の特定をすると同時に、これ以上被害が広がらないようにすることが必要不可欠です。その際、行われるのが殺虫処理。殺虫処理には薬剤を使う方法と、使わない方法の2種類があります。

薬剤を使う方法は「燻蒸」(くんじょう)です。害虫が広い範囲で発生しているときに有効な方法ですが、適切な薬剤を選定するとともに、燻蒸した資料に影響がないかモニタリングを続けることが必要になります。また、人体に影響がないよう使用方法を守ることも大切です。

薬剤を使用しない方法には「低酸素濃度処理」、「二酸化炭素処理」、「低温処理」、「高温処理」があります。必要に応じて処理方法を選択しますが、それぞれ温度や処理期間に条件があり、守られない場合は効果がでなくなってしまいます。薬剤を使わないものの、酸素や二酸化炭素の濃度は人体に影響を及ぼしますので注意が必要です。

害虫から資料を守るために

文化財害虫は、ゴキブリのように大きなものもいれば、非常に小さくなかなか肉眼では見えない虫もいます。そのため、日々の館内チェックだけでなく、どのような害虫によってどのような被害がもたらされるのか知識を身に付けることも重要です。資料を守るためには、地道な努力が必要だと思います。

学芸員・博物館職員のつぶやき

刀剣ワールド
刀剣ワールドでは、美術的に価値の高い刀剣・日本刀や甲冑(兜鎧)にまつわる様々なコンテンツを公開しています!
名古屋刀剣ワールド
名古屋刀剣ワールド/名古屋刀剣博物館(名博メーハク)では、重要文化財などの貴重な日本刀をご覧いただくことができます。