光る君へ 9話「遠くの国」 - ホームメイト
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あらすじ(2024年3月3日放送分)
直秀を捕らえた藤原道長は、「その者達は誰も殺めていない。検非違使へ引き渡せ」と武者達に手荒な真似をしないように命じます。そればかりか、藤原道長は、獄にも訪れ、直秀達の処分を軽くしようと看督長(かどのおさ:検非違使の下級職員で主に牢獄の監守)に心づけを渡していました。
一方、まひろは直秀達の隠れ家を訪ねます。すると、なだれ込んできた放免達に、盗賊の仲間だと誤解され、捕縛されてしまいました。こうして、獄へ連行されたまひろは、藤原道長と再会。藤原道長はまひろを見て驚き、看督長に自分の知り合いだと告げ、まひろを助けます。まひろは礼を言い、その場をあとにしました。
後日、藤原道長は直秀達が流罪に決まったことを知ります。そこで藤原道長とまひろは、別れを告げるために、獄を訪ねました。しかし、直秀達の姿は見当たりません。門番に尋ねると、「鳥辺野[とりべの]に向かった」と答えます。鳥辺野は、屍を捨てる葬送地です。そのことに気付いた2人は急いで鳥辺野へ向かいました。そこには無惨に刺殺された直秀達の姿が。驚愕のあまり、藤原道長とまひろは言葉を失うのでした。
東三条殿では、意識不明だったはずの藤原兼家が目覚めています。実は、安倍晴明の祈祷により意識を取り戻していた藤原兼家は、その後も倒れたふりをしていました。というのも、花山天皇を退位させたい藤原兼家は、「藤原忯子の怨霊が藤原兼家に取り憑いている」という安倍晴明の秘策を高値で買い、噂を流していたからです。やがて、安倍晴明は花山天皇に「藤原忯子の怨霊を成仏させるには、帝が出家するしかない」と告げ、退位を決意させるのでした。
ライターのつぶやき「直秀が行き着いた遠くの国」
捕らえられた直秀達の運命とは
直秀に待っていた悲劇の結末
直秀が盗賊団の一員であることを知った藤原道長でしたが、武者達には盗賊団の命を取ることなく、検非違使(けびいし:平安京の治安維持機関「検非違使庁」の役人)へ引き渡すように命じました。
数日後、姫達の集まりの帰りに直秀ら散楽一座の隠れ家を訪ねた「まひろ/紫式部」(演:吉高由里子[よしたかゆりこ]さん)は、突然なだれ込んで来た放免(ほうめん:検非違使庁に使われた下級職員。罪人の捜査などを担当した)達によって盗賊仲間と間違えられ、従者の「乙丸」(おとまる:演:矢部太郎さん)と共に獄へ連行されてしまいます。
しかし、まひろ達が獄へ到着したとき、ちょうどその場に居合わせた藤原道長が助けてくれたため、何とか逃げ出すことができたのです。獄を訪れていた藤原道長は、直秀達の処分を軽くしてもらうつもりで、看督長(かどのおさ:検非違使庁に使われた下級職員。主に牢獄の看守を担当した)に心付けを渡していたところでした。
直秀達が流罪に処されることが決まり、出立することを知ったまひろと藤原道長は別れを告げるため、夜が明けないうちに獄へと訪ねます。しかし、門番によると直秀達は、「鳥辺野」(とりべの)へ向かったと言うのです。鳥辺野は、屍(しかばね)を捨てるための場所。まひろと藤原道長は慌てて駆け付けましたが、すでに手遅れでした。無惨にも刺殺され、変わり果てた姿となった直秀達の遺体が、そこには残されていたのです。驚愕のあまり言葉をなくしたまひろと藤原道長は2人で土を掘り返し、泣きながら直秀達を埋葬しました。
このとき、藤原道長は直秀が手に握っていた泥を自らの手で払いのけ、代わりに自身の扇子を握らせています。扇子は、散楽を象徴する道具のひとつです。藤原道長がこのような行動を取ったのには、悲劇的な最期を迎えた直秀が持つ、散楽の役者としての尊厳を守って送り出してあげたいとの想いがあったのかもしれません。
心付けが意味を成さなかった理由
藤原道長が看督長に心付けを渡していたのにもかかわらず、直秀達が殺されてしまったのは、7人もの罪人を流刑にする手数が面倒であったことが、理由のひとつとして考えられます。当時の習わしで言えば、窃盗の罪であれば鞭打ち程度で済んでいました。
しかし、若い貴族である藤原道長が心付けを渡すという行為は、検非違使や放免からすると、鼻につくような「お坊っちゃんの流儀」であり、ならばその憂さを晴らすために、自分達より身分の低い散楽の一座の者達を簡単に殺してしまおうと考えてしまったのではないでしょうか。藤原道長が良かれと思ってしたことが裏目に出て、悲劇の結末を迎える引き金となってしまったのです。
直秀は第8話で、「都は所詮、山に囲まれた鳥籠だ。俺は鳥籠を出て、あの山を越えていく」と未来への希望を語っていました。しかし、直秀が都を出て辿り着いた「遠くの国」は、直秀が願っていた海の見える国ではなく、「あの世」ということになってしまったのです。
鳥辺野ってどんな場所?
直秀の遺体が葬られることとなってしまった鳥辺野は、平安時代以来、葬送の地として用いられていた場所。古来、京の都では遺体を地上にさらし、風化させて葬る「風葬」(ふうそう)が主流となっており、鳥が啄む(ついばむ)のに任せて遺体を処理する「鳥葬」(ちょうそう)の方法も採られていたことから、平安京の空間を穢れ(けがれ)させないため、都の外に追いやっていた葬送の地を「鳥辺野」と呼んだと言われているのです。

六道の辻にある西福寺
鳥辺野の場所の範囲に明確な定義はありませんが、現在の京都市東山区にある、東山の西のふもと辺りであったとされ、「西福寺」(さいふくじ:京都市東山区轆轤町[ろくろちょう])の横側、及び「六道珍皇寺」(ろくどうちんのうじ/ろくどうちんこうじ:京都市東山区小松町)の門前には、鳥辺野の入口があった場所を示す「六道の辻」の石碑が建てられています。
この鳥辺野は、紫式部が著した「源氏物語」において、「紫の上」や「夕顔」などの葬送の地として登場。また史実として、藤原道長・「藤原頼通」(ふじわらのよりみち)父子や、「清少納言」(せいしょうなごん、演:ファーストサマーウイカさん)が仕えることになる「藤原定子」(ふじわらのさだこ、演:高畑充希[たかはたみつき]さん)が荼毘(だび)に付された場所としても知られています。
思いも寄らない安倍晴明の秘策とは
藤原道長が東三条殿に戻ると、病に臥して眠っていたはずの父「藤原兼家」(ふじわらのかねいえ、演:段田安則[だんたやすのり]さん)が意識を取り戻していました。実は藤原兼家は内裏(だいり)の殿上間(てんじょうのま)で倒れたあと、「安倍晴明」(あべのはるあきら/せいめい、演:ユースケ・サンタマリアさん)の祈祷によってすでに目覚めていましたが、眠ったふりを続けていたのです。
そしてこれは、65代「花山天皇」(かざんてんのう/かさんてんのう:演・本郷奏多[ほんごうかなた]さん)の一刻も早い退位を願う藤原兼家が安倍晴明より買った、ある秘策が背景にありました。

藤原兼家

安倍晴明
その秘策とは、亡き「藤原忯子」(ふじわらのよしこ/しし、演:井上咲楽[いのうえさくら]さん)の怨霊が藤原兼家に取り憑いたという噂を、内裏で流すこと。そして、正気を取り戻した藤原兼家から離れた藤原忯子の御霊(みたま)が、成仏できずに内裏をさまよっていることを安倍晴明より花山天皇に申し伝えさせ、同天皇に出家するように仕向けると言うのです。

藤原道兼
これを聞いた藤原道長とその長兄「藤原道隆」(ふじわらのみちたか、演:井浦新[いうらあらた]さん)は、驚きを隠せない様子でしたが、三兄弟の中で次兄「藤原道兼」(ふじわらのみちかね、演:玉置玲央[たまきれお]さん)だけは、父のこの秘策を知っていました。
第8話で藤原道兼が、父・藤原兼家から折檻されていることをまひろの父「藤原為時」(ふじわらのためとき、演:岸谷五朗さん)に打ち明けてしおらしい態度を取っていたのも、今回、藤原忯子のことを忘れられない花山天皇の想いに、「痛いほど分かっております」と理解を示していたのもすべて演技だったのです。折檻によって負ったとした腕のあざも、父の陰謀を実現させるためならと痛みも厭わずに(いとわずに)、藤原道兼が自ら付けたものでした。
まひろと藤原道長の関係は、制作発表時より「ソウルメイト」(魂の伴侶)になると言われていましたが、第9話では2人の大切な友人である直秀を自分達の手で埋葬することにより、単なる恋愛関係ではなく、何とも深い業(ごう)を共に背負う仲になってしまったのです。そんな複雑な想いを抱えたまひろと藤原道長の恋心は、次の第10話ではどのように絡み合っていくのでしょうか。動き出した藤原兼家による花山天皇の退位・出家計画の進展と共に、来週も目が離せません。