光る君へ37話 すれ違う母娘の心 - ホームメイト
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まひろと娘・藤原賢子のすれ違い
酔いが招いた、自分勝手な語り

紫式部
お産のため里帰りしていた「藤原彰子」(ふじわらのあきこ/しょうし)が、土御門邸から内裏に戻る前に、「まひろ/紫式部」は、自分も里に下がりたいと申し出ました。
久しぶりに、実家へ帰ったまひろは、父「藤原為時」(ふじわらのためとき)達には歓迎されましたが、娘「藤原賢子」は、どこか戸惑ったような様子。
再会の挨拶は堅苦しく、せっかく手に持っていたスイセンの花も、まひろではなく、従者「いと」に渡してしまいます。それを見たまひろは、母としての居場所がないと感じたように見受けられました。
その日の夕食時、酒に酔ったまひろは、家族に内裏や土御門邸での豪華で盛大なできごとについて語って聞かせます。最初は会話が盛り上がっていたものの、次第に微妙な雰囲気に。日頃のストレスから解放されたまひろは、つい周囲の反応を気にせずに、しゃべり過ぎてしまったのです。しかし、貧しい生活を送る藤原賢子やいと達にとっては、現実離れした話。どう反応すれば良いのか戸惑うのも無理はありません。藤原賢子も失望に耐えるような表情を浮かべることとなりました。
「中宮様のご出産に立ち会えるなんて、これまでで一番胸が熱くなったわ」と語ったまひろの言葉も、藤原賢子には、母にとっての一番は自分ではないのだと思い知らされる内容で、傷付いたに違いありません。
おそらく藤原賢子は、母・まひろにもっと自分へ関心を寄せて欲しかったのではないでしょうか。のちのシーンで、まひろの留守中、藤原賢子の友は書物だった、と藤原為時から聞かされる場面があります。
もしも夕食時に、まひろがもっと藤原賢子を気遣って、留守中の様子を聞くなどしていれば、「こんな書物を読んで、こう思った」といった会話ができて、心の距離を縮められていたかもしれません。
寂しさが怒りに変わり爆発
藤原賢子は、まひろが早々に土御門邸へ戻ることを知り、溜めていた感情をぶつけます。見かねた藤原為時が「お前の母は働いて、この家を支えてくれておるのだぞ」とフォローすると、さらに怒りが増した様子で、「母上が嫡妻ではなかったから、私はこんな貧しい家で暮らさなければならないのでしょう!?」、「母上なんか大嫌い!」と叫びました。
しかし、その言葉は本心ではなく、きっと寂しさの裏返しなのでしょう。門の外で泣いていた姿が印象的でした。まひろも、藤原賢子の複雑な気持ちを理解していたからこそ、あえて反論をしなかったように見受けられるのです。さらに、まひろが久しぶりに帰った実家に対して「みすぼらしく見えた」と心の中で呟いていたことから、まひろが宮中のきらびやかな世界に魅力を感じていることが伺えますし、自分の実力が認められる場所で、生きがいを感じていることも分かります。これらに引け目に感じていたことも重なって、藤原賢子に反論できなかったのではないでしょうか。
藤原道長とまひろへの、疑惑のまなざし
耐える源倫子と、くぎを刺した赤染衛門

赤染衛門
前回の36話で、藤原彰子が産んだ「敦成親王」(あつひらしんのう)の五十日の儀(いかのぎ)の際に、和歌を詠み交わしたまひろと「藤原道長」(ふじわらのみちなが)。これがきっかけで、2人の関係に疑いの目が向けられることとなりました。
藤原道長の正妻である「源倫子」(みなもとのともこ/りんし)の心中は穏やかではないはずですが、疑惑を口にすることはありません。
しかし、夫だけでなく娘の藤原彰子までも、まひろにすっかり頼り切っている様子ですから、源倫子のストレスは相当なもののはずです。
一方、先輩女房である「赤染衛門」(あかぞめえもん)はまひろに、「そういうことは分からないでもないけれど、お方様だけは傷付けないでくださいね」と、言葉を掛けました。まひろの立場をある程度理解しつつも、しっかりとくぎを刺し、源倫子を守ろうとする姿勢は、まさに女房の鑑(かがみ)と言えます。
赤染衛門自身もかつて、源倫子の母である「藤原穆子」(ふじわらのむつこ/ぼくし)から、源倫子の父である「源雅信」(みなもとのまさのぶ)との仲を疑われる場面がありました。あれはただの疑いだったのか、実際に男女関係があったのかは定かではありませんが、赤染衛門がまひろに忠告したのは、自身の過去の経験を踏まえてのことだったのかもしれません。
平安時代の召人
実は、平安時代は、貴族が仕える女房に手を出すことは珍しくありませんでした。
「源氏物語」の主人公「光源氏」(ひかるげんじ)も、正妻「葵上」(あおいのうえ)に仕える女房「中納言の君」(ちゅうなごんのきみ)を、密かに恋人としていたのです。主人と男女の関係を持っている女房は「召人」(めしうど)と呼ばれ、その関係は公然の秘密とされていました。主人の前ではそのことを口に出さないことが暗黙の了解であり、また、妻には召人の存在を黙認することが求められたとも言われているのです。こうした時代背景を考えると、37話で源倫子が理性的に感情を抑え込んでいた姿にも納得がいきますね。
呪詛に囚われた藤原伊周

藤原伊周
37話では、親戚である「高階光子」(たかしなのみつこ)や「源方理」(みなもとのかたまさ)から、「このままでは「敦康親王」(あつやすしんのう)様は左大臣に追いやられてしまいます。どうなさるのです」、「帝も左大臣様にはお逆らいになれぬと聞いております」などとプレッシャーをかけられる「藤原伊周」(ふじわらのこれちか)の様子が描かれていました。藤原伊周は「事を急いては過ちを犯す」と冷静な返答もしているのですが、その後、結局呪詛を行っているので、もはや呪詛が日課になっているかのようです。
とは言え、呪詛を専門家に依頼せずに自分でやっている点は、秘密漏洩に対する危機意識が高いとも思えます。その分、効果が薄いように見えるのが難点ですが。37話ではせっかく正二位に昇進した藤原伊周ですから、もっと違う方向性から尽力して欲しいものです。
さて、次回38話「まぶしき闇」では、呪詛に手を染めてばかりの藤原伊周の運命はどのような展開を見せるのでしょうか。また、37話の終盤、まひろの前に現れた清少納言の目的は何なのかなど、来週の「光る君へ」も目が離せません。