山田銀河の刀剣ツイッター

鍔・鐔を調べる - 名古屋刀剣ワールド

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鍔・鐔は、意匠の研究がいろんな本に載っているので、 観ればある程度図柄を特定して名前を付けることができます。また、写真から銘も調べることができます。鍔の調査業務についてご紹介します。

今回のテーマ

書籍や他館の図録を見ながら類例を探す

書籍や他館の図録を見ながら類例を探す

こんにちは。東建コーポレーションの山田銀河です。今日は普段の業務について少しお話ししたいと思います。テーマはの調べ方。

弊社では、所蔵する美術品の写真を基本的にすべて撮影し・一部をサイトに掲載しているのですが、実は写真を撮って初めて実物をちゃんと知るということがよくあります。

というのも美術品が必ずしも手元(名古屋刀剣ワールド)になく、多度や丸の内の施設に置かれていたり、「資料に情報がないけどが附属していた」ということがあったりするからです。

また、拵全体の写真が資料にあるけれど、鍔や小柄が良く見えないというケースが多いです。

なので刀装具の名前は詳しく分からないことも多いのですが、少しでも特徴を明らかにした上でサイト掲載をしたいと思うので、映像課から写真が納品されるといつも調べものをしています。

あとは新規収蔵品についても、必ずしも詳しい名前で届くわけではないので、調べるようにしています。

鍔写真集
職人の技が光る芸術性の高い鍔を、画像にて細部までご覧頂ける写真集です。
鍔イラスト集
日本刀の刀装具のひとつである鍔のイラストをご覧頂けます。
鍔写真/画像
刀剣の刀身と持ち手部分である柄の間にある「鍔」の写真がご覧頂けます。

この鍔の意匠は何か

この鍔の意匠は何か

この鍔の意匠は何か

この2つの鍔はもともと「鉄地透鍔」という名前で納品されていた物です。

名前が同じだと単純に紛らわしいですし、サイトで同じ名前のページが存在していると検索で不都合なので、こういうのはなんとか名前を分けねばなりません。

全然違う図だし、それぞれ特徴はあるのでなにか名前を付けたいなと思いますよね。

左は花の透かしや、Πのような形の直線的な透かしが目立ち、右側は簡素な建物のような物が見えます。

これらを調べた結果、「源氏香透鍔」と「時雨亭図透鍔」という名前を付けることができました。

源氏香透鍔

源氏香透鍔

源氏香透鍔

この直線的な透かしが、源氏香と呼ばれるものでした。

源氏香とは、5種類の香りをかぎ分ける遊びで、香りの順番に対応する5本の縦線を引いておいて、これとこれが同じと思った香りの縦線をつなぐんだそうです。

これが52種類あって、源氏物語五十四帖のうち、最初の巻の「桐壺」と最終の「夢の浮橋」を除いた52のタイトルが、模様と対応させられているので、源氏香と呼ばれています。

源氏香の例

源氏香の例

源氏香ということが分かった時点で次の仕事にうつっていましたが、今回記事化するにあたって、せっかくなので何の模様なのかを調べました。

花散里の透かし

花散里の透かし

どうやら源氏物語第11帖「花散里」(はなちるさと)を表す模様だそうです。

右から1番目と3番目、2番目と4番目の香りが同じだったときの模様ということでしょう。

花散里は控えめでまじめな性格の女性だったそうで、詳しいストーリーは調べていませんが、梅や桜の透かしが彫られているのも、花散里という名前に合っていておしゃれだなと思いました。

時雨亭図透鍔

時雨亭図透鍔

時雨亭図透鍔

これはよくある図柄だそうです。

平安時代の歌人、藤原定家(ふじわらのていか)が都の北、景勝・大堤川の東に構えた山荘のことを時雨亭というそうですが、能や謡曲「定家」では、この時雨亭を舞台に悲恋が描かれました。

この物語では時雨亭は半ば廃墟のようになり蔦が絡み付いているようで、言われてみればそんな風景にも見えてきます。

赤坂派という鍔の流派は透かし鍔ばかり作るのですが、赤坂派では掟物と言ってもいいくらい様々に時雨亭図の鍔を制作しています。

赤坂派の特徴は「東屋と時雨亭の額を置くだけ」であり、左下の物は額なんだそう。

東屋と時雨亭の額

東屋と時雨亭の額

学芸員の知識頼み

黒塗打刀拵 鍾馗騎獅子図鍔

黒塗打刀拵 鍾馗騎獅子図鍔

以上のように、たまたま似たようなデザインの鍔が本に載っていれば良いですが、そうでなければ、中国や日本の故事や人物などに精通していないと名付けることができません。

私はあいにくそういうほうには疎いので、このようなときには学芸員に頼っています。

こちらは拵に付属している鍔で、はじめは名前が何もありませんでした。

「なにか中国風の武人が獅子に乗っかっているみたいなんですけど」と山田怜門氏に聞いたところ、「鍾馗(しょうき)が獅子に乗っているので[鍾馗騎獅子図]で良いかと思います。どちらも魔除けの意味があります」と即答してくれました。

私は「鍾」も「馗」も初めて見た漢字だったのですが、よくそんなことを知っているなあと感心します。

銘を調べる

拵に付帯する鍔にも銘がある場合があって、今のところ約300ある鍔のうち、60点に銘を確認しています。「銘が分かったからなんだ」と言うとよく分からないのですが、銘があるとなんだかうれしいし、せっかく得られる情報なので、隙間時間で写真を観ながらデータにまとめています。

こちらの鍔は、有栖川宮家伝来の小太刀の長光が入っている拵の鍔で、「土屋安親 行年六十五」と銘があります。拵も綺麗な青貝微塵塗りなので、この鍔も良い物なのではないかなと思っています。

青貝微塵鞘 突兵拵(小太刀 銘 長光) 鍔

青貝微塵鞘 突兵拵(小太刀 銘 長光) 鍔

(意匠の話に戻ってしまいますが、この鍔は山と川が描かれていますね。しかしだからと言ってこれが山と川図などと言うそのままの名前になるとは到底思えません。裏面には雲のかかった月と梅の木があります。)

ただ銘の見極めとなると、それは真贋の鑑定にもかかわってくると思うんですね。

「鍔の鑑定は日本刀よりも難しい」という話も聞きますので、慎重に取り扱いたいです。

さて、こうやって鍔を調べることは多いのですが、あまりそればかり調べていても他の仕事が進みませんから、パッと調べて無理そうだったらすぐ諦めるようにしています。

そして何かまた新しいことを知ったときに、ふと「もしかしてこれかも」なんてことが起こるのを期待します。